介護事業所のBCPは作っただけでは不十分?|見直し・研修・訓練のポイントを解説|社会保険労務士法人エンジー
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公開日 2026/09/20
社会保険労務士法人エンジーでは、介護サービス事業所・施設や障害福祉サービス事業所を運営する事業者様に向けて、実務に役立つ情報を発信しています。今回は、BCP(業務継続計画)について取り上げていきたいと思います。
介護事業所におけるBCPの策定が義務化されましたが、「書類を作ったものの、その後の運用に手が回っていない」とお悩みの事業所様は少なくありません。しかし、いざ自然災害や感染症が発生した際、計画が現場で機能しなければ利用者や職員の安全を守ることは難しくなります。
本記事では、介護事業所がBCP策定後におこなうべき「研修」と「訓練」の違いや、実効性を高めるための実施ポイント、そして訓練後の見直しの手順について分かりやすく解説します。施設長や人事労務担当者の方が、限られた人員の中でどのようにBCPの運用サイクルを回していくべきか、自社での対応や専門家へ相談する際の判断材料としてぜひお役立てください。
令和6年度(2024年度)の介護報酬改定では、感染症もしくは災害のいずれか、または両方のBCPが未策定の場合や、当該BCPに従い必要な措置が講じられていない場合に、「業務継続計画未策定減算」が適用されます。
なお、厚生労働省Q&Aでは、BCPの周知、研修、訓練及び定期的な見直しの実施の有無自体は、この減算の算定要件ではないとされています。[1]
介護事業所においてBCPは策定するだけでなく、研修や訓練を通じて職員に周知し、実効性を高めることが求められています。計画を作って終わりにせず、現場で実際に機能する状態を維持することが重要です。

介護サービスの分野では、感染症や自然災害が発生した場合であっても、利用者へのサービス提供を安定的・継続的に行うことが求められています。こうした背景から、令和3年度介護報酬改定を受け、すべての介護サービス事業者を対象に、BCPの策定、研修・訓練(シミュレーション)の実施等が運営基準上位置付けられ、3年間の経過措置を経て令和6年4月から義務化されました。厚生労働省のガイドラインや研修資料は、その作成・運用を支援するための資料です。[3][5][6][7]
令和6年度(2024年度)の介護報酬改定では、BCP策定の徹底を求める観点から、「業務継続計画未策定減算」が導入されました。ただし、減算の適用関係はサービス種別や経過措置の有無によって異なるため、Q&Aや算定構造、自治体の周知資料を併せて確認することが重要です。[1][2][3]
もちろん、サービス種別によっては一定の経過措置が設けられている場合もありますが、基本的にはすべての介護事業所で速やかな対応が求められています。制度の運用や猶予期間の詳細については、指定権者である自治体の最新情報を確認することが大切です。
運営指導では、BCPの有無だけでなく、研修及び訓練計画や実施記録の確認が行われます。単に書類を作るだけでなく、いつ・誰が・どのような研修や訓練をおこなったかという記録を残しておくことが実務上非常に重要です。[4]
まだBCP自体の策定が完了していない事業所様や、策定の手順から整理したい場合は、まずは基礎知識をまとめた以下の記事をご参照ください。
BCPの運用において、「研修」は知識の習得を目的とし、「訓練」は実践的な行動の確認を目的としています。両方をバランスよく実施することが制度上も求められています。
研修と訓練は混同されやすいですが、役割が明確に異なります。研修はマニュアルやルールの全体像を頭で理解するためのインプット作業です。一方の訓練は、研修で得た知識をもとに、実際の緊急時に体が動くかどうか、あるいは計画通りに物事が進むかを確認するためのアウトプット作業となります。
どちらか一方だけを実施しても、実際の災害時や感染症発生時に適切な行動をとることは難しいため、両輪で進めていくことが基本です。以下の表で、それぞれの違いを整理します。
【研修と訓練の比較表】
| 項目 | 研修 | 訓練(シミュレーション) |
|---|---|---|
| 主な目的 | BCPの全体像、方針、ルールの知識習得と共有 | 計画通りに行動できるかの確認、課題・改善点の発見 |
| 対象者 | 原則として従業者(雇用形態にかかわらず、対応に関わる者を含む) | 役割に応じた従業者、または従業者全体 |
| 実施内容の例 | マニュアルの読み合わせ、動画視聴、講義 | 安否確認システムの操作、避難誘導、図上での意思決定 |
| 期待する効果 | 組織全体の危機管理意識の向上、共通認識の形成 | 初動対応の迅速化、BCPの実効性検証 |
研修は従業者を対象に、感染症と自然災害の双方について、定期的に知識をアップデートする場として位置づけます。
BCPの周知・研修・訓練は、当該事業所の従業者に対して、サービス種別に応じた頻度で実施することが求められます。少なくとも、災害時や感染症発生時の対応に関わる従業者へは、雇用形態にかかわらず内容が共有されている状態にしておくことが重要です。[4][6][7]
実施頻度については、厚生労働省の資料では、入所系は年2回以上、通所系・訪問系は年1回以上の研修・訓練の実施が示されています。[3][8][9]
新規採用者への早期周知・研修は実務上有効ですが、介護BCPについて全国一律に「新規採用時に必ず実施」とする明文根拠は本文執筆時点で確認できないため、そのように断定する表現は避け、必要に応じて事業所内ルールや管轄自治体資料に基づいて運用する旨の記載にとどめるのが適切です。
研修を実施する際は、感染症予防の基礎知識や自然災害発生時の初動対応に加え、事業所内の連絡体制、備蓄品の管理、避難手順など、現場の安全確保に直結するテーマを具体的に設定することが大切です。単に知識を学ぶだけでなく、非常時に職員一人ひとりが自分の役割を理解し、落ち着いて対応できるようにするという視点で内容を組み立てることが望まれます。
介護事業所におけるBCP研修のテーマは、大きく「感染症対策」と「自然災害対策」に分けて整理することができます。厚生労働省も、感染症編と自然災害編のガイドラインや研修資料をそれぞれ公表しています。[5][6][7]
訓練は、実際の災害や感染症の発生時を想定し、BCPやマニュアルに基づく対応が現場で適切に実行できるかを検証するとともに、課題や改善点を把握するための重要な機会です。
訓練には、代表的なものとして、会議室等でシナリオに沿って議論する机上訓練と、実際に体を動かして行動を確認する実地訓練があります。厚生労働省の研修資料では、このほか参集訓練、対策本部設置訓練、安否確認訓練、総合訓練なども例示されています。[8][9]
訓練を企画する際は、目的や参加者の負担を考慮して「机上訓練」と「実地訓練」を使い分けることが効果的です。
夜間や休日など職員が少ない時間帯や、感染症流行時に自然災害が起きる複合的なシナリオを設定することで、より実践的な備えが可能になります。
常に日中の人員が揃っている状況を想定して訓練をおこなっても、実態に即していない場合があります。介護事業所ならではの事情を考慮し、以下のようなシナリオを設定して訓練をおこなうと効果的です。
シナリオに変化を持たせることで、職員の応用力を高めることにつながります。
研修や訓練を実施した後は、必ず振り返りをおこない、見つかった課題をBCP本体に反映させる改善サイクルを回すことが不可欠です。
訓練は「失敗なく完璧にこなすこと」が目的ではありません。むしろ「連絡網が機能しなかった」「備蓄品の場所がわからなかった」「想定以上に避難誘導に時間がかかった」といった課題を発見するために実施します。
訓練終了後は参加者で意見交換をおこない、訓練等で洗い出された課題を検討し、対策を実施してBCPに反映させるなど、定期的に見直しを行います。このPDCAサイクルを継続することが、BCPを実効性のあるものに育てていくポイントです。また、運営指導ではBCP本体に加え、研修及び訓練計画や実施記録の確認が行われるため、これらの過程を記録として残しておくことが重要です。[4][6][7]
BCPの継続的な見直しや研修・訓練の実施は、利用者だけでなく職員の安全確保を図るうえでも重要です。厚生労働省のガイドラインでも、労働契約法第5条(使用者の安全配慮義務)の観点から、職員の過重労働やメンタルヘルス対応への適切な措置を講じることが使用者の責務とされています。[6][7]
介護事業所におけるBCPは、ひとまず書類を策定して終わりではなく、現場で実際に機能させてこそ本来の役割を果たします。本記事で解説したように、計画の実効性を高めるためには、「研修」で従業者へ知識を共有し、「訓練」で実際の行動や初動対応を確認する両輪の取り組みが欠かせません。さらに、訓練のやりっぱなしを防ぎ、浮き彫りになった課題をもとに計画を「見直し(改善)」し続けるPDCAサイクルを回すことが、制度上も実務上も重要になります。
しかし、日々の利用者様へのケアや人材確保に追われる介護現場において、最新の法改正や自治体ルールを把握しつつ、研修や訓練の企画、BCPのアップデートまでを自社のみで完結させるのは負担が大きいのも実情です。
限られた人員のなかで実効性のある運用に限界を感じる場合や、自社の計画が監査等の要件を満たしているか不安な場合は、介護・福祉業界の事情に詳しい社会保険労務士などの専門家へ相談することも一つの有効な選択肢です。必要に応じて外部のサポートも活用しながら、いざという時に利用者と職員の安全を守れる体制づくりを進めていきましょう。
社会保険労務士法人エンジーでは、BCPの作成支援サービスもおこなっております。もしお困りの際は、お気軽にお問い合わせください。
(参考資料・出典)
この記事は、令和8年9月時点で厚生労働省が公表・掲載している現行資料等をもとに作成しています。
[1] 令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.6)(令和6年5月17日)|厚生労働省
[2] 介護報酬の算定構造|厚生労働省
[3] 災害時等における業務継続の取組の強化等|厚生労働省
[4] 確認項目及び確認文書|厚生労働省
[5] 介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修|厚生労働省
[6] 介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン|厚生労働省
[7] 新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン|厚生労働省
[8] 机上訓練(入所系)|厚生労働省
[9] 机上訓練(居宅介護)|厚生労働省
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