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6月に開催された“介護給付費分科会”のポイントを理解しておきましょう

2018年度法改正・報酬改定に向けた議論がいよいよ本格始動

2018年度介護保険法改正・報酬改定の具体的議論が現在進行形で行われている“介護給付費分科会”。

2017年4月末に本格始動した本会は、5月に2回、6月に2回開催されており、徐々に各サービス・機能ごとの具体的な論点も公示されてきています。

これらの情報を早めにインプットし、(心構えも含めた)然るべき準備を行っていく事を目的に、今月は、6月に開催された会で挙げられた論点について、内容を確認してまいります(今回は特に多くの事業者の皆様に関連するであろう2つのテーマを抜粋してお届けします)。

2017年6月開催の「介護給付費分科会」で示された論点(抜粋)とは

では、早速、中身を確認してまいりましょう。先ずは6月7日に開催された分科会であがっていた論点からの抜粋です。

【論点】

  • (口腔関係)
    介護保険施設における適切な口腔衛生管理の普及、充実を図るため、歯科医師、歯科衛生士の活用や歯科医療との連携についてどのように考えるか。
  • (栄養関係)
    施設における栄養管理体制についてどのように考えるか。例えば、

    • 入院率の低下や在宅復帰率の向上に資する栄養ケア・マネジメントの推進
    • 医療・介護の施設間における栄養管理の連携の推進
      等を図るための方策として、どのような仕組みが考えられるか。
      在宅要介護者の自立支援には低栄養予防が重要であり、低栄養傾向の者も一定数存在する中、通所サービスとして栄養改善サービスを推進するには、どのような仕組みが考えられるか。

※2017年6月7日介護給付費分科会資料より抜粋

現在、要介護高齢者に対する口腔衛生管理については居宅療養管理指導や口腔機能向上加算(以上、居宅サービス関連)、口腔衛生管理体制加算、衛生管理加算(以上、施設サービス関連)等、栄養管理については「栄養マネジメント加算」「経口移行加算」「経口維持加算」「療養食加算」(以上、施設サービス関連)、「栄養改善加算」「居宅療養管理指導」(以上、居宅サービス関連)等で評価が行われていますが、要件となる症状や人員基準のハードルの高さ等を背景に、これらの導入が進んでいない、というのが実際のところではないでしょうか。

一方、自立支援、という観点から考えると、口腔ケアや栄養管理の重要性については言及するまでもないことは間違いなく、このギャップをどう埋めていくのか?というテーマが、次回の法改正で採り上げられる可能性は高いと思われます(基準緩和?加算額増加?etc)。

特に「通所サービス」という言葉がわざわざ挙げられている事を考えると、通所サービス内における促進を図るため、何らかの方策が打たれる可能性が高い、と考えておいた方が良いのではないでしょうか。

では、続きまして、通所介護に関する論点に入らせていただきます。

【論点】

  • 通所介護について、利用者の必要な日常生活上の世話及び機能訓練を行うことにより、利用者の社会的孤立感の解消及び心身の機能の維持並びに利用者の家族の身体的及び精神的負担の軽減を図るという機能を踏まえ、サービスの提供実態等の現状、改革工程表、仕事と介護の両立、通所リハビリテーションとの役割分担等の観点も含め、そのサービスのあり方をどのように考えるか。
  • 特に、利用者の心身の機能の維持が求められるサービスであることを踏まえ、通所介護における機能訓練のあり方についてどのように考えるか。

※2017年6月21日介護給付費分科会資料より抜粋


先ず、1つ目の論点に書かれている内容について、3点ほど確認してまいります。

  • (その1:提供実態について)
    本内容に関しては、関連データとして「サービス提供時間」に関する調査結果が挙げられています。そのデータの内容を確認すると、サービス提供時間区分ごとの利用状況については、平成27年度末では7時間以上9時間未満が58%、5時間以上7時間未満が29%、3時間以上5時間未満が12%となっている中、実際のサービス提供時間を見ると、7時間以上9時間未満は「7時間以上7時間半未満」、5時間以上7時間未満は「6時間以上6時間半未満」、3時間以上5時間未満は「3時間以上3時間半未満」が各々ピークになっています(下図参照)。


    ※2017年6月21日介護給付費分科会資料より抜粋


    これらの指摘から想像するに、場合によってはサービス提供時間の区分が変わったり、それに比例して報酬単価も変化したり、という可能性も考えられるのではないでしょうか。今すぐどうこう、という訳ではありませんが、次に言及する視点(=仕事と介護の両立)との連動含め、事業者としては頭に置いておいた方が良い情報ではないか、考える次第です。それでは、次の内容に移ります。

(その2:仕事と介護の両立)
この内容については、国策的課題である「介護離職ゼロ」を推進する上で、平成27年度改定においては「延長加算の見直し(=介護者の更なる負担軽減や、仕事と介護の両立の観点から、延長加算の対象範囲を最大14時間までに拡大)」等が行われましたが、それらが機能している(=延長加算が数多く取得されている)とは言い難い現状も指摘されており、この辺りのインセンティブ設計にあらためて手を加えられる可能性が考えられる点、及び、「特に夜間帯のデイサービス提供体制を充実させるため、平成30年度介護報酬改定において夜間帯の加算措置を十分に検討すること(一億総活躍社会の構築に向けた提言(平成29年5月10日自由民主党一億総活躍本部)より抜粋)」という提起も議論の俎上に上がるかもしれないことを認識しておく必要があるでしょう。それでは1つ目の論点の最後(3つ目)、「通所リハビリテーションとの役割分担」という内容に移ります。

  • (その3:通所リハビリテーションとの役割分担)
    本内容については「短時間のリハビリテーションが本来あるべき姿であることから、例えば時間区分を通所介護と通所リハビリテーションで分けるなど、特徴づけを行ってはどうか(社会保障審議会介護保険部会の意見書を基に厚労省加筆)」という趣旨の検討が行われるかと思います(これはどちらかと言うと、通所リハに変更が反映されるかもしれませんが)。


    最後に、2つ目の論点として掲げられている「特に、利用者の心身の機能の維持が求められるサービスであることを踏まえ、通所介護における機能訓練のあり方についてどのように考えるか」という観点に映ってまいります。

    本観点については、「通所介護事業所間で見ても、リハビリテーション専門職の配置と個別機能訓練加算の算定の有無によって、機能訓練の効果(日常生活自立度の変化)に差がみられた(「通所介護等の今後のあり方に関する調査研究事業(平成29年3月)」より抜粋)」という調査結果を背景に、財務省が指摘している「機能訓練加算を取得していない通所介護は減算対象にすべき」という指摘も本格検討される可能性も十分に考えられるでしょう。

    通所介護事業を経営されている皆様は、これらの情報・視点をしっかり頭に入れておかれることを強くおススメする次第です。

議論のプロセスから関心を持って情報を追いかけておくことが大切

上記情報はあくまで「現時点における議論のプロセス」であり、今後、時間の経過と共に、更に内容が煮詰められたり、或いは、場合によっては議論の風向きがいきなり転換するような状況も発生するかもしれません。介護経営者としては「こうなりました」という最終的な結論だけでなく、「何故このような内容に着地したのか?」という、言葉の裏に潜む意図や背景を温度感も含めて理解する姿勢が重要となってくるのではないでしょうか。

そのためにも早め早めに情報をキャッチアップし、頭の中奈で“PDCA”を回しておく事が重要だと思われます。

「もし上記が実行された場合、自社にはどのような影響が出てくるか?」「それら想定される影響に対し、どのような対応を行う事が最適なのか?」幹部育成の視点も含め、そのような議論を社内で始めていかれる事を是非、おススメする次第です。

著者:enjie_me-admin

5月に開催された“介護給付費分科会”のポイントを理解しておきましょう

2018年度法改正・報酬改定に向けた議論がいよいよ本格始動

2018年度介護保険法改正・報酬改定の本格議論が始まった“介護給付費分科会”。

2017年5月にも2度開催され、徐々に各サービス・機能ごとの具体的な論点提示が開始されています。
これらの情報を早めにインプットし、(心構えも含めた)然るべき準備を行っていく事を目的に、本会で挙げられた論点について内容を確認してまいります。

2017年5月開催の「介護給付費分科会」で示された論点とは

では、早速、中身を確認してまいりましょう。先ずは定期巡回・随時対応型訪問介護看護の論点についてです。

【論点】

  • 定期巡回・随時対応型訪問介護看護や夜間対応型訪問介護について、請求事業所数や利用者数の現状を踏まえると、更なる普及が課題であると考えられるが、サービス供給量を増やす観点や機能強化・効率化を図る観点から、人員基準や資格要件等の在り方についてどう考えるか。特に、事業者からは、日中のオペレーターについて兼務を求める要望があるが、経営の効率化を図る観点から、オペレーター等の役割や実態を詳細に調査した上で、ICTの活用等も含めた人員基準や資格要件の在り方について検討してはどうか。
  • 定期巡回・随時対応型訪問介護看護は、そのサービス提供の多くが、集合住宅に居住する利用者に対して行われているが、地域全体へ必要なサービスが行き届くようにするためにはどのような方策が考えられるか。
    ※2017年5月12日介護給付費分科会資料より抜粋

    定期巡回・随時対応型訪問介護看護について、サービスの参入の障壁・課題として、59.8%の事業所が「利用者が集中する時間帯の職員体制の構築」を挙げており、また、オペレーターの基準・兼務要件に対する要望として、72.5%の事業所が「日中においても随時訪問介護員の兼務を認めてほしい」を挙げている中、ICTの有効活用含め、そのような声がどこまで反映される形になるのか。
    また、「集合住宅以外へのサービス提供」を更に促進させるために、どこまで具体的な対応(例えば、報酬上の手当etc)が施されるのか。
    「(採算ラインに乗りづらい、という意味で)そもそもサービスモデルとして無理があるのではないか」という厳しい批判も噴出する中、量的整備の実現に向けて、今後の議論の深化に注目していきたいところです。


    では、次のサービス、小規模多機能型居宅介護と看護小規模多機能型居宅介護の論点に移ってまいります。こちらも「量的整備を如何に実現するか」というテーマを基礎に議論が展開されています。

【論点】

(共通の論点)

  • 小多機や看多機について、請求事業所数や利用者数の現状を踏まえると、更なる普及が課題であると考えられるが、サービス供給量を増やす観点や機能強化・効率化を図る観点から、人員基準や利用定員等の在り方についてどう考えるか。
  • 小多機や看多機について、看護職員の雇用が難しいという声があるがどう考えるか。

(小規模多機能型居宅介護に関する論点)

  • 小規模多機能型居宅介護事業所に置かれる介護支援専門員以外の介護支援専門員が居宅サービス計画を作成した場合の取扱いについてどう考えるか。
  • 小規模多機能型居宅介護と他のサービスとの併用についてどう考えるか。
    ※2017年5月12日介護給付費分科会資料より抜粋


    1つ目と2つ目の論点を総合するに、「人員基準」について」は、1人以上とされている看護職員の配置に対する弾力的な運用の検討が有力視されています。
    デイサービスと同様、病院や診療所、訪問看護ステーションなどと協力して利用者の状態をチェックできるようにしている場合には、基準を満たしているとみなす、等の案が候補として挙がっているようです。
    2つ目の論点「居宅のケアマネが小多機の利用者も担当できるようにする」という案については、「利用者や家族の立場からみると(ケアマネが引き続き変わらない、という意味で)安心」「外部から確認の目が入るというメリットもある」等に代表される前向きな意見と、「ケアマネジメントが内包されているからこそ、利用者の状態に応じたきめ細かく柔軟なサービスが提供できる」という慎重派の意見が併存しています。
    あくまで私見ながら、「目的達成の為に何を為すべきか」という視点に立って考えると、「前向きな意見」に基づいた推進を大前提に、慎重派の意見に基づいた肉付けを行う方向になるのかもしれない、と感じる次第です。

最後の3つ目の論点「他サービスとの併用」については、現行ルールで認められている訪問リハ、訪問看護、居宅療養管理指導、福祉用具貸与の併用以外のサービス併用について検討を進めていく、という内容です。
繰り返しになりますが、「量的整備が促進されるために何をすべきか」という大上段のテーマに基づいてどのような内容に煮詰められていくのか、今後の動きを注視したいところです。

また、番外編として、論点の中には挙げられていませんでしたが、別添資料の中には「要介護1以上の者を対象に、訪問・通いを中心に、泊りを含めたサービスを柔軟に組み合わせて提供する(介護予防型は設けない)」「訪問サービスの利用増に対応するため、登録定員の上限を50人に引き上げる」「登録者3人に対し介護職員1名(以上)を配置する。
夜間は2名(以上)を配置する」「看護職員の配置は必須とせず、訪問看護ステーションの併設を条件とする」「同一主体であるかどうかを問わず、訪問看護の外付け・内付け(看護小規模多機能)のどちらも可能とする」「計画作成責任者(ケアマネ)の内付けは現行どおりとする」等の新たな基準のもとに展開する小規模多機能型居宅介護の中の新類型「新型多機能サービス」についても言及が為されています。このような動きがある、ということも、関係各社の皆様は頭に置いておいた方が良いと言えるでしょう。


※2017年5月12日介護給付費分科会資料より抜粋

最後に、「認知症施策の推進」に対する論点を挙げさせていただきます。

【論点】

  • 利用者の状態に応じた医療ニーズへの対応(医療機関との連携、口腔機能の管理等)、福祉用具の提供など、認知症対応型共同生活介護のサービスの在り方について、どのように考えるか。
  • 認知症対応型通所介護の利用者の状態を踏まえたサービスの在り方について、地域密着型通所介護との役割分担等を含め、どのように考えるか。
  • 認知症高齢者が今後も増加する見込みである中、認知症に関連する加算のあり方についてどのように考えるか。

    1つ目の論点、特に「医療ニーズへの対応」については、「認知症対応型共同生活介護から退去の判断に至った背景では、“医療ニーズの増加”が最も多く、入居後の状態像の変化に応じた医療ニーズの対応の可否については、“胃ろう・経管栄養”について対応不可と回答している事業所が多い」という実情を踏まえ、何らかの対応策が示される可能性が高いと思われます。

    2つ目の論点については、一つの検証結果として、「日常生活自立度別の割合は、それぞれ地域密着型通所介護ではⅡbが30.6%、認知症対応型通所介護ではⅢaが33.3%で最も高い割合となっているなど、認知症対応型通所介護の利用者の方は日常生活自立度が重度である方の割合が高い」というデータが挙げられています。これらのデータを踏まえ、どのような役割分担を進めていくのか?(例えば、認知デイはⅢa以上とか?)

3つ目の論点については、前回の改定において通所介護や特定施設入居者生活介護等、認知症高齢者を一定程度受け入れ、必要な体制を確保している事業所への評価(認知症加算・認知症専門ケア加算)を創設したこと等を背景に、今後、認知症高齢者の増加が見込まれる中で、各サービスにどのような「認知症対応」のキーワードを埋め込んでいくのか?について、前向きに検討が加えられていく、と理解をして差し支えないでしょう。

議論のプロセスから関心を持って情報を追いかけておくことが大切

上記情報はあくまで「現時点における議論のプロセス」であり、今後、時間の経過と共に、更に内容が煮詰められたり、或いは、場合によっては議論の風向きがいきなり転換するような状況も発生するかもしれません。
介護経営者としては「こうなりました」という最終的な結論だけでなく、「何故このような内容に着地したのか?」という、言葉の裏に潜む意図や背景を温度感も含めて理解する姿勢が重要となってくるのではないでしょうか。

そのためにも早め早めに情報をキャッチアップし、頭の中で“PDCA”を回しておく事が重要だと思われます。
「もし上記が実行された場合、自社にはどのような影響が出てくるか?」「それら想定される影響に対し、どのような対応を行う事が最適なのか?」幹部育成の視点も含め、そのような議論を社内で始めていかれる事を是非、おススメする次第です。
有益な情報を入手出来次第、どんどん情報を発信してまいります。

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4月に開催された“財政制度審議会”のポイントを理解しておきましょう

2018年度法改正・報酬改定の本格議論開始に先駆け、財務省がメッセージを発信

2018年度介護保険法改正・報酬改定の本格議論開始に先駆けて開催された“財政制度文科会(4月20日開催)”。

ここには同省の、次期改正・改定に向けたスタンスが明確に表れています。

国の金庫番を担う財務省は、次期法改正・報酬改定にあたり、どのようなスタンスで臨もうとしているのか?

「財政制度審議会」で示された7つの論点とは

では、早速、中身を確認してまいりましょう。先ずは一つ目の論点についてです。

【改革の方向性案1】

前回改定の影響や介護サービス事業者の経営状況を検証するに当たっては、前回改定の趣旨を踏まえつつ、きめ細かな分析を行うとともに、平成30年度介護報酬改定に向けて、引き続き適正化・効率化すべきことは実施しつつ、質の高いサービス提供を促す改定を検討すべき。





「介護サービス事業者の収支状況を踏まえた適正化(△4.48%)」「介護人材確保のための処遇改善加算の拡充(+1.65%)」「質の高いサービスを提供する事業者に対する加算(+0.56%)」等、基礎報酬を下げつつも、良質なサービスの提供に努める事業者には一定程度のリカバリーの余地を残す形となった、前回の介護保険法改正。改定前後における介護サービス事業者の収支状況(右表)を見る限り、結果として多くの介護サービスで収支差率が低下しているものの、プラスを維持しているサービスは未だ多く、特に、訪問、通所などの在宅サービスの収支差率は比較的高水準にとどまっている状況にある、との認識を財務省は示しています。

そのような環境下、次期改定においても引き続き、「良質なサービスを追求しようとする(≒積極的に加算取得の動きを行う)事業者」とそうでない事業者において、報酬単価の“落差”がうまれる仕組みを検討していくことは変わらないスタンスだと思われます。

また、2016年に改定された「改革工程表」においては、「生活援助を中心に訪問介護を行う場合の人員基準の緩和やそれに応じた報酬の設定」のほか、「通所介護などその他の給付の適正化」についても、「関係審議具体的内容を検討し、平成30年介護報酬改定で対応」との文言が明記されています。

以上の様な状況を勘案する限り、特に訪問介護・通所介護の次期改定は、更に厳しさが増すもの、と理解しておくのが賢明と言えるでしょう。

その流れから、通所介護に関する具体的な視点が明示されているのが次の「案2」です。

【改革の方向性案2】

○ 機能訓練などの自立支援・重度化防止に向けた質の高いサービス提供がほとんど行われていないような場合には、事業所の規模にかかわらず、基本報酬の減算措置も含めた介護報酬の適正化を図るべき。




 上記改革案は、右表がその根拠になっています。

このデータを見る限り、確かに個別機能訓練加算の取得率は規模が小さくなるにつれて低くなる、という傾向にはあるようです。

上記が実行されるとなると、個別機能訓練加算を取得していない小規模デイの事業者の経営は益々厳しくなる可能性が高くなるのは間違いありません。

該当する事業者としては、現時点から対応方法について検討を進めておかれることを強くおススメする次第です。

では、続いて「案3」を見てまいりましょう。

【改革の方向性案3】

大阪府の調査を参考にしつつ、「サービス付き高齢者向け住宅」や「住宅型有料老人ホーム」といった高齢者向けの住まいを中心に、必要以上に在宅サービスの提供がなされていないか、平成30年度介護報酬改定に向けて実態調査を行った上で、給付の適正化に向けた介護報酬上の対応を検討すべき。

仮に上記データが現状を的確に表しているとするならば、大阪府のサ高住・住宅型有料老人ホームにおける利用単位消化率は確かに「異常値」と言ってもおかしくなようなレベルで推移しているように思われます。

仮にこの実態が、居住系サービス事業の収支を成立させるための「囲い込み」だと判断される場合、ここにメスが入るのは「止む無し」なのではないでしょうか。

今後、国としてどのような打ち手を具体的に提示していくのか?特に居住系サービスを展開されている事業者の方は、今後の議論の行く末をキャッチアップしておく必要があるでしょう。

続いて、「案4」です。

【改革の方向性案4】

「自立支援・重度化防止に向けた介護」を促す介護報酬上のインセンティブについては、例えば、利用者の要介護度の改善度合い等のアウトカムに応じて、事業所ごとに、介護報酬のメリハリ付けを行う方向で検討を進めるべき。

その際、クリームスキミング(改善見込みのある利用者の選別)を回避する必要性にも留意し、アウトカム評価のみならず、例えば、専門職による機能訓練の実施といったプロセス評価等を組み合わせることを検討すべき。

こちらは上記「案2」とも類似する視点である、と理解して差し支えないでしょう。

重ねての確認となりますが、国は「成果(=要介護度の維持・改善)」を上げる事業者とそうでない事業者に対する報酬上の「メリハリ」を効かせていく考えを強めていることをあらためて確認しておきましょう。

続いては「案5」です。

【改革の方向性案5】

介護ロボットの活用については、予算事業を有効活用しつつ、導入効果を分析・検証し、人員・設備基準の緩和につなげることで、生産性の向上を図り、介護人材不足にも対応していく観点から検討を進めるべき。

国策的な視点も含め、益々勢いが増してくる介護ロボット。

「見守り」「移動支援」「排せつ支援」「入浴支援」「移乗介助」の5分野を中心に今後、様々な実証実験が展開されると思います。

現場視点で見るとまだまだ疑問符を付けたくなる状況が多い介護ロボットですが、「未来には必要不可欠」という視座のもと、国の補助・基準緩和等を有効活用しつつ、我々事業者としても積極姿勢で「育てていく」発想を持つ事が重要だと言えそうです。

最後、「案6」「案7」については、主に保険者に対する改革案なので、参照する程度で十分だと思います。

 

【改革の方向性案6】

都道府県・市町村におけるデータ分析力を高め、需要を適切に見込みながら計画的な制度運営に努めるとともに、供給が需要を生む構造を排除する観点から、ケアプランの検証等を通じて、真に必要なサービスの利用を徹底すべき。

 

【改革の方向性案7】

市町村(保険者)による介護費の適正化に向けたインセンティブを強化するため、具体的かつ客観的な成果指標(例:年齢調整後一人当たり介護費の水準や低下率等)に応じて、調整交付金(介護給付費の5%)の一部を傾斜配分する枠組を導入すべき。

 

情報を“咀嚼”し、前倒しで“思考の準備(備え)”を

本格議論に向けて正に今、“ゴングが鳴った”状態に突入したとも言える、次期介護保険法改正・報酬改定。

上記改革案については今後、時間の経過と共に、更に内容が煮詰められていくものと思いますが、現場の経営者としては(実行の際は一定の投資が必要となる場合もあるかもしれない事を含め)、早め早めに頭の中で“PDCA”を回しておく事が重要だと思われます。

「もし上記が実行された場合、自社にはどのような影響が出てくるか?」「それら想定される影響に対し、どのような対応を行う事が最適なのか?」幹部育成の視点も含め、そのような議論を社内で始めていかれる事を是非、おススメする次第です。

私たちも今後、有益な情報を入手出来次第、どんどん情報を発信してまいります。

著者:enjie_me-admin

平成29年度厚生労働省予算の大枠を理解しておきましょう

“平成29年度厚生労働省予算”が成立

2017年2月27日に衆議院を通過し、年度内成立となった厚生労働省予算。そこには来年度、厚生労働省がどの分野に注力しようとしているのかについての意図が大きく反映されており、その意図は、介護事業者の経営にも様々な影響を及ぼしてくるものと思われます。

そのような前提のもと、老健局・社会援護局の予算内容から、特に介護業界に関係が深い予算の概要・ポイントをご紹介させていただきます。

「平成29年度厚生労働省予算」おさえておくべきポイントとは

大きく12個の内容をお伝えさせていただきます(下記の通り)。

 

【その1】新しい包括的支援事業(社会保障の充実) :215億円

市町村は、以下の①から④までの事業を段階的に実施する。

  1. 認知症施策の推進
    初期集中支援チームの関与による認知症の早期診断・早期対応や地域支援推進員による相談対応、認知症カフェの設置や認知症の人本人が集う取組を推進する。
  2. 生活支援の充実・強化
    生活支援コーディネーターの配置や協議体の設置等により、地域における生活支援の担い手やサービスの開発等を行い、高齢者の社会参加及び生活支援の充実を推進する。
  3. 在宅医療・介護連携の推進
    地域の医療・介護関係者による会議の開催、在宅医療・介護関係者の研修等を行い、在宅医療と介護サービスを一体的に提供する体制の構築を推進する。
  4. 地域ケア会議の開催
    地域包括支援センター等において、多職種協働による個別事例の検討等を行い、地域のネットワーク構築、ケアマネジメント支援、地域課題の把握等を推進する。

    ⇒平成28年度対比で20億円のプラス予算となっています。

【その2】介護人材の処遇改善:289億円

臨時に介護報酬改定を行い、介護職員処遇改善加算について、介護職員の経験、資格又は評価に応じた昇給の仕組み(キャリアアップの仕組み)を構築した事業者に対し、新たな上乗せ評価を行う加算を創設し、月額平均1万円相当の処遇改善を実施する。

⇒新たに処遇改善加算の区分が新設されており、それらに対する予算です。

【その3】高齢者の自立支援、介護予防の横展開:2.6億円

高齢者の自立支援・介護予防の取組の横展開を図るため、都道府県を通じたアドバイザー派遣や集団研修などを実施することで、保険者による給付実態の分析、地域ケア会議の活用によるケアマネジメント支援などを推進するとともに、都道府県への研修会や技術的支援も実施する。}}

⇒平成28年度対比で0.8億円のプラス予算となっています。

【その4】ケアマネジメント手法の標準化:29百万円

高齢者の自立支援と介護の重度化防止を推進するため、ケアマネジメント手法の標準化に向けた取組を実施する。

⇒こちらは新規の予算となります。

【その5】介護ロボット開発等加速化事業:3億円

介護ロボット等の開発・普及について、開発企業と介護現場の協議を通じた着想段階からの現場のニーズの開発内容への反映、開発中の試作機へのアドバイス、開発された機器を用いた効果的な介護技術の構築など、各段階で必要な支援を行うことにより、加速化を図る。

⇒こちらは平成28年度対比で同額予算となっています。

【その6】介護分野のICTの活用等による生産性の向上:2.3億円

ICTの活用等による生産性の向上効果を普及させるため、小規模事業者における介護記録等のICT化を進めるための試行的事業を行い、その具体的成果を集約して横展開を図る。

⇒こちらは新規予算となっています。

【その7】認知症疾患医療センターの整備の促進:8.0億円

認知症の人とその家族に対する早期診断や早期対応を行うため、認知症の専門医療機関である認知症疾患医療センターを整備する。

また、さらなる整備促進のため、地域の実情に応じた設置が可能となるよう要件を弾力化する

⇒こちらは平成28年度対比で同額予算となっています。

【その8】認知症施策総合戦略の推進:2.8億円

「認知症施策推進総合戦略」(新オレンジプラン)に基づき、適時適切な医療介護等の提供、若年性認知症の人への支援、地域での見守り体制の確立、認知症高齢者等の権利擁護等、認知症高齢者にやさしい地域づくりを推進する。また、認知症サポーターの更なる地域での活用を促進する取組への支援も行う。

⇒こちらは平成28年度対比で0.1億円のプラス予算となっています。

以上、老健局関連の予算を確認してまいりました。

続いて、社会・援護局関連の予算の中から介護事業者に関連が深そうな内容を確認してまいります。

【その9】「我が事・丸ごと」の地域づくりの強化に向けた取組の推進:20億円

住民に身近な圏域で、他人事を「我が事」に変えていくような働きかけや複合的な課題、世帯の課題を「丸ごと」受け止める場を設けることにより住民が主体的に地域課題を把握し、解決を試みることができる体制を構築する。

また、育児、介護、障害、貧困、さらには育児と介護に同時に直面する家庭など、世帯全体の複合化・複雑化した課題を的確に捉え、分野別の相談支援体制と連動して対応することができる総合的な相談支援体制を構築する。

⇒平成28年度対比で、一部新規予算がとられています。

【その10】外国人介護福祉士候補者の受入れ支援:83百万円

経済連携協定(EPA)等に基づき入国する外国人介護福祉士候補者を円滑かつ適切に受け入れるため、介護に関する基礎的な研修や受入施設の巡回訪問等を行う。

新たに、平成29年度においては、外国人介護福祉士の就労範囲に訪問系サービスを追加することに伴い、相談、通報窓口体制の整備等を図る。

【その11】外国人介護福祉士候補者学習支援事業:1.1億円

受入施設における外国人介護福祉士候補者の継続的な学習支援のため、集合研修や通信添削指導等の学習支援を実施する。

【その12】技能実習生の日本語学習等支援事業:96百万円

技能実習制度への介護の職種追加に当たって、必要なコミュニケーション能力を確保しつつ、技能移転が円滑に行われるよう、日本語学習の環境整備(Eラーニングの整備)等を行う。

最後に、外国人介護福祉士候補者関連の予算についてはまとめてお伝えします。

自社に関連しそうな項目・内容については更に深掘りを以上、来年度予算から介護事業者に関連が深そうなものを抜粋させていただきました。

繰り返しになりますが、年度予算に反映される各項目は、厚生労働省として整備・充実を進めていきたいと考えている内容ばかりです。

以上概要のご紹介です。

関心があるものについては是非、ご自身で更に深く調べてみることをおススメする次第です。

※平成29年度厚生労働省予算を更に深くお知りになりたい方はこちら

http://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/17syokanyosan/

著者:enjie_me-admin

「介護福祉士国家試験受講者激減」をどう見るか?

今年度の介護福祉士受験者数は、昨年の「半数以下」

2017年1月29日にペーパーテストが行われた今年度の介護福祉士の国家試験。資格の取得を目指して受験手続きをした人が、「前回の半分以下にまで減少した」と言うセンセーショナルな記事が各メディアに踊りました。

当社にもこの情報に関する質問やコメントを求める問合せを幾つかいただきましたが、皆様は如何思われましたでしょうか?

今回は本情報に対する適切な理解の仕方(あくまで当社見解に基づくものですが)、及び、本情報を契機とした、今後の国の人財戦略の骨子をあらためて確認してまいります。

受験者数が急激に落ち込んだ要因とは

社会福祉振興・試験センターによると、今年度の国家試験を受験するための申込みをした人は7万9113人。

ちなみに昨年度は16万919人、一昨年度は16万2433人だったことを考えると、確かに各メディアが報道した通り、「5割を下回る急激な落ち込み」となっています。

この落ち込みの最たる理由は、“実務経験ルート”の大幅な変更。

従来は介護職員として仕事を3年間続ければ国家試験に挑戦することができたものに対し、今年度からは「最大450時間の“実務者研修”の修了が新たに加えられた」ことが、受験者数に大きな影響を及ぼしたことは疑う余地もないでしょう(ちなみに無資格者は450時間、ヘルパー2級有資格者or「初任者研修」修了者は320時間、ヘルパー1級有資格者なら95時間の研修を受けることが必要になります)


※上記図の抜粋元URL・・・・http://xn--8uqx4er6kvw4aoki.net/joseikin/

これらの変更を実施した目的は、介護福祉士に「現場の経験だけでは身に付きにくい、体系的な知識や技術を学んでもらう」、即ち「高い専門性を有した存在になってもらう」ため。

それにより、専門職としての資質・地位の向上やサービスの質の底上げに結びつけていこうとしている訳ですが、その一方で、「働きながら長時間におよぶ研修をこなすのは大変」「研修受講費等の金銭的負担が大きい」加えて「努力して資格を取っても、賃金が大幅に上がるケースとは決まっておらず、“割に合わない”のではないか?」等の声も以前より現場の懸念として上がっていました。

ちなみに厚生労働省はこのような声を踏まえ、当初は2012年度からの予定としていた実施時期を、今年度まで繰り返し延期。

研修時間の短縮(600時間⇒450時間)や通信教育の活用、費用の助成等々、然るべき対策を講じていくことを明言してきました。

しかしながら初年度しては、結果として上記通りの人数に。「高邁な理想を優先して現場の実情を考慮しなかった結果。

介護福祉士を志す人が減ってしまっては、サービスの質の向上にもつながっていかない。まさに本末転倒で完全な失敗(結城康博・淑徳大学教授)」等の厳しい指摘もなされる中、要件再緩和の検討等、今後に関する再考を促す声もあらためて挙がってきているようです。

(以上の情報に関する引用・参照元:http://www.joint-kaigo.com/article-3/pg561.html

変更となった“原点”に立ち戻って考える

さて、上記情報に対する当社見解をお伝えするにあたり、先ずは、「専門性」に関する国の方針を再確認しておきましょう。


※引用元:http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12004000-Shakaiengokyoku-Shakai-Fukushikibanka/270624houdou.pdf_2.pdf

上記資料は「“介護人材総合確保方策”の目指す姿」としてよく用いられているものです。

“介護福祉士”という職種をより魅力あるものにするためには、「現状以上の専門性の強化」は欠かせない要素となる。

(少々乱暴な物言いになることはご容赦いただきたいのですが)そのためには、日常的な介護業務の一定部分(=専門性を有さなくとも対応できる部分)は、上記図で言うところの裾野層、即ち、「就業していない女性」「他業種からの参入」「若者」「障がい者」「中高年齢者」等々、或いはロボットやICTに任せていく。

そして、その役割分担の変更により生じる余裕工数を「より効果性・再現性が高いケアの追求」に振り向けることで、更にご利用者・ご家族へは勿論、業界の地位向上にも貢献していく。

そのような役割・能力を期待されているのが“介護福祉士”である以上、(上述の通り)「現場の経験だけでは身に付きにくい、体系的な知識や技術を得てもらう」ことは未来を見据えた場合、必要不可欠な事項だと理解する事が出来、それ故、確かに現場の実情とは乖離があるにせよ、現時点においては、単年の状況だけで安易に妥協すべきではない(=変更初年度の受験人数が下がった、という事実だけで研修時間の短縮等を図るべきではない)と考えるべきではないでしょうか。

経営者は「大局」を見つめた判断を

最後に、本問題に対し、国会では2017年2月10日、民進党の初鹿明博が「研修時間の更なる見直し等を検討すべきではないか?」との質問を行い、内閣総理大臣臨時代理の菅義偉国務大臣は次のような内容の答弁書(一部抜粋)を提出していることを確認しておきましょう。

『御指摘の「実務者研修」の受講により介護福祉士として必要な知識及び技能を修得したことを課すこととしているが、これは、近年の介護サービスに対する国民のニーズの多様化・高度化に対応して介護福祉士の資質の向上を図ることを目的としているものである。

実務経験ルートの者が介護等の業務の実務経験だけでは修得が困難な介護福祉士として必要な知識等を修得するためには、実務者研修について現行制度上定めている科目、時間数等からなる内容の教育が行われることが必要であると考えており、現時点においては、お尋ねの「研修時間の更なる見直し等」を行うことは考えていない。』・・・・・・・・

国策の潮目を読みながら自社としての「あるべき姿(大局)」を描き、「現状」とのギャップを冷静に把握しつつも、如何にして「現状」に迎合・妥協することなく「あるべき姿」に近づける努力を行うのか。

ストレスがかかる行動であることは百も承知ですが、今、踏み出す一歩一歩の積み重ねが、未来の皆様の会社を創っていくことは間違いありません。

是非、そんな視点で本問題も捉え、未来を見据えた対応を講じることを強くおススメする次第です。

 

新たな情報が入り次第皆様にどんどんお伝えしてまいります。

著者:enjie_me-admin

デイサービス事業者A社は何故、円滑に介護予防事業を起ち上げる事が出来たのか?

事業者の実例をご紹介

先月以降、処遇改善加算の加算率発表以外にさほど目新しい動きは出てこなかった2017年1月。

そこで今月は今までと趣向を変え、口コミを中心に介護予防事業を円滑に起ち上げることに成功したA社・B社長の事例をご紹介させていただきたいと思います。

総合事業の全国開始が直前に迫り、要支援単価の低下に翻弄される事業者が多い中、本事例は何を我々に教えてくれるのか?是非、そんな視点でお読みいただければ幸いです。

 

A社・B社長が何より大切にしているもの

最近、総合事業の動きも見据える中、特にリハビリデイ等で認定外高齢者向けサービスの展開を検討されている事業者様に出会う事がよくあります。

そんな中、A社の事例が頭にあるせいか、「この事業の目的はどこにあるのですか?」と敢えてうかがうことがあるのですが、多くの事業者様からの回答は概ね次の3点でした。

「地域でニーズがありそうだから」

「保険サービスの収益が落ち、保険外サービスで少しでも売上を上乗せ・回復せたいから」

「将来、要支援・要介護者になるかもしれない方々と早めに接点をつくっておけば、ゆくゆくは当社サービスをそのままご利用いただける等、保険内サービス事業にも好影響を及ぼすことが出来るかもしれないから」

勿論、上記の考えが正しい、とか、間違い、という類の話ではありません。

ただ、今回ご紹介させていただくA社は、実は、上記3つの何れも目的に据えていた訳ではありませんでした。では、彼らの目的は一体何だったのか?

それは、「既存ご利用者の願いを叶える」この一点だけでした。

「要支援1や2、特に要支援1の方はADLが回復する見込は十分にあり、運動する機会を増やすことが出来さえすれば、要支援認定から外れる可能性は高いし、かつ、ご利用者本人もそれを望んでいる場合が多い」

ご利用者と日々触れ合う中、B社長はそんな想いを強く抱いていたそうです。とはいえ、介護保険事業の枠組みの中では、要支援1の方に週2回、週3回、と回数多く来ていただく事は経営的にも難しい。何とかこの矛盾を解決出来ないか、、、、

そこから生まれたのが、「保険サービスとは別で週に1回、既存ご利用者向けに保険外で運動指導サービスを提供する」というアイデアでした。

B社長はこのアイデアをもって、要支援1のご利用者(Cさん)のところへ向かいます。

「Cさん、前回お聞かせいただいた、『出来れば週にもう1回多く通いたい』というお話、社内で色々検討してみたんですが、やはり経営的には対応が難しく、Cさんのご希望をそのまま叶えて差し上げることは難しい状況です、力不足で本当に申し訳ありません」

「ただ、我々としても、Cさんには絶対に元気になっていただきたい。その為に何が出来るか?について色々考えたのですが、例えば週末、デイサービスが休みの日曜日に、保険外で運動指導サービスを提供させていただく、という案は如何でしょうか?保険は活用出来ませんが、1回約3時間、2,500円程度いただければ、喜んで対応させていただきたいのですが、、、」

その話を聞いたCさんからは「是非、お願いするよ」とその場で即、返事。

「ありがとうございます。では、せめて、週末のご利用時にも送迎はやらせていただきます」

こうして、先ずは要支援1の方を中心とした「既存ご利用者のための介護保険外サービス」が始まったのです。

当然ながら、認定の入り口に立ったばかりの要支援1のご利用者にとって、週1回の運動と週2回の運動とでは、ADLの改善スピードも、効果も格段に変わってきます。予想通り、Cさんの運動機能もどんどん回復されていきました。そんな中、Cさんの回復ぶりを見ていた要支援2のご利用者(Dさん)が、デイサービス中にCさんに尋ねます。

「最近、以前に比べて見違えるほど元気になってきたんじゃない?何かやってるの?」

「あぁ、週末に1回、自費の運動指導サービスを受けているんだ」

「あぁ、以前、B社長が言っていた、あのサービスか。そんなに元気になるのなら、俺も行ってみようかな」

こうして「保険外サービス」が賑わい始め、一人、また一人、と、ご利用者が認定から外れる、という嬉しい状況が起こってきました。

しかしながらこの話、このままキレイな美談で収まる訳ではありません。
要支援1の方がお元気になり、認定がはずれる、ということは即ち、保険サービスのご利用者が1名減少してしまう、ということです。経営者であれば、この矛盾に悩むことも当然あるでしょう。

しかし、B社長は、この事実に直面しても、自らの軸はぶれませんでした。

「ご利用者の「元気になりたい」という希望を叶えるために始めたのだから、これが正しい姿だ」

他方、経営としては、「いいことをやっているんだから利益が上がらなくてもいいじゃないか」では済まされません。このギャップに直面したB社長はその後、どう対応したか。

「当社は、“介護保険から卒業出来るデイサービス”です」

「“卒業後も運動指導を継続し、元気でいていただくことをご支援するデイサービス”です」

という新たな価値を地域に発信し、口コミも伴い、結果、現在では「介護保険サービス」と「介護保険外サービス」が両輪となって事業全体が好転する、という、善循環が生まれた、という訳です。

「制度」だけではなく、「顧客」を見つめる

A社の事例は単価変動に翻弄される中、つい狭い視野に陥りがちな我々に対し、「顧客志向」という言葉の持つ重要性・深さをあらためて教えてくれているように思います。

制度の議論は少し横に置き、目の前のご利用者や地域が何を望んでいるのか?について真剣に考える事で、ひょっとすると成功確度の高い事業アイデアが見えてくるかもしれません(正にA社のように)。

是非、そんなニュートラルな目線であらためて自らの周囲を見つめ直してみることをおススメする次第です。

著者:enjie_me-admin

「介護保険制度の見直しに関する意見」について

介護保険部会より

12月9日、社会保障審議会・介護保険部会より「介護保険制度の見直しに関する意見」が出ました。この内容は大きく3つに分かれています。

1つ目は「地域包括ケアシステムの深化・推進」、2つ目は「介護保険制度の持続可能性の確保」、3つ目は「その他の課題」です。

そのなかで今回は、介護事業者にとって重要だと思われる2つ、「地域包括ケアシステムの深化・推進」「介護保険制度の持続可能性の確保」についてお伝えます。

個々の内容については、これまで開催された介護保険部会において議論されたものが積みあがったものであり、この場においても触れてきた論点が整理されたものであります。

ですから、今回のニュースレターは、この意見書個々の論点についての詳細ではなく、全体としてどうなったかという観点から確認してまいります。

ではまず、「地域包括ケアシステムの深化・推進」から見ていきます。

 

地域包括ケアシステムの深化・推進

まず全体を見てみますと次の図の通りです。


※平成28年12月9日 社会保障審議会・介護保険部会資料より

ここには、大きく3つの論点があります。

「1、自立支援・介護予防に向けた取り組みの推進」「2、医療・介護の連携の推進等」「3、地域包括ケアシステムの深化・推進のための基盤整備等」です。

このなかで、今回注目したいのは「1、自立支援・介護予防に向けた取り組みの推進」のなかにある「(1)保険者等による地域分析と対応」です。

ここでは自立支援・介護予防を推進するにあたり、事業者のあり方について検討するだけではなく、それを管轄する保険者、つまり自治体等に着目するという考え方がとられています。

今後はデータに基づく分析が強化され、適切な指標による実績が評価されます。

それにより保険者である自治体等が「見える化」され、地域ごとの取り組み状況も明確になります。

その評価によってインセティブの付与も検討されており、自治体等にとっては社会保障費に対してより慎重に向き合うことにもなりそうです。

以前のニュースレターでも触れましたが、このことにより保険者である自治体などの動向で事業者にどう影響がでるかについては注視しておきたいところです。

この保険者機能の強化は、社会保障費抑制という観点から見たときに、これまでにない視点から踏みこんだという印象を受けます。

次にもうひとつ採り上げたい論点「介護保険制度の持続可能性の確保」について見ていきます

 

介護保険制度の持続可能性の確保

この論点も大きな視点から見てみますと3つの視点があります。

「利用者負担」「給付のあり方」「費用負担」についてです。


※平成28年12月9日 社会保障審議会・介護保険部会資料より

「利用者負担」については、現役並み所得者の3割負担の議論が更に進んでいます。12月19日、麻生財務相と塩崎厚生労働相との折衝においてこの合意がなされています。

※参照URL:http://www.joint-kaigo.com/article-2/pg125.html

「給付のあり方」については軽度者への支援のあり方についての議論が注目されました。介護保険部会の議論においても、また財務省の財政制度分科会の議論でも、軽度者は地域支援事業へ移行との流れがありました。しかしながら、この移行は今回見送られています。

とはいえ、この論点はこれで決着したというわけではなく、現に12月19日の折衝において麻生財務相と塩崎厚生労働相との間でこの議論が交わされています。

今回の改定でこそ見送られていますが、次期改定へ向けての動きは引き続き着目する必要がありそうです。

※参照URL:http://www.joint-kaigo.com/article-2/pg126.html

一方で「費用負担」については新たに「総報酬割」が導入されます。能力に応じた負担を求めることとなる「総報酬割」は、負担増が想定される層からの反対が多かったものの最終的には導入する方向でまとまりました。ここは、「介護保険制度を維持する」という観点からは、前へ踏み込んだ内容となったと言えそうです。

その導入工程も示され、2020年度に全面導入されます。
※参照URL:http://www.joint-kaigo.com/article-2/pg123.html

「介護保険制度の持続可能性の確保」という全体からみると、「利用者負担」「給付のあり方」というところでは大きな踏み込みがなかった印象を受けますが、「費用負担」においては新たに「総報酬割」の導入により一定の改革に踏み込んだ印象を受けます。

つまり、大きな枠組で捉えた場合、今回の改正は「費用負担」で踏み込んだ一方、「利用者負担」「給付のあり方」については、先に改革を持ち越したという印象を受けます。

ただし、この2つについても引き続き注視することは必要です。

 

本質を見失わないためには

今月は「介護保険制度の見直しに関する意見」ついてお伝えしました。この意見により2018年の報酬改定へ向けて大きな方向性は示されたと言えます。

今後の手続きとしては、議論は介護給付費分科会へと移され、より細かな報酬についての議論に引き継がれます。今後はこの行方について着目していきます。

ところで、これら議論がどこへ落ち着くにせよ、「そもそもこの制度はだれのためのものなのか?」「何の為にあるのか?」という視点が大事でしょう。

もちろん、制度維持のために実務的には事業者と調整すべき点が出てくることもあるかもしれません。しかしながら、「誰のための制度か」という視点こそ最も重要であると改めて感じます。

また、事業者にあっては、制度の活用は重要である一方、それが行き過ぎ制度に振り回されることがないよう、気をつけたいものです。

2018年の改定へ向けて、これからさらに具体的な議論が始まります。

私たちもそれを追いかけ、タイムリーな情報提供をしていきますので、引き続きよろしくお願い致します。

著者:enjie_me-admin

月額1万円の処遇改善、処遇改善加算の新要件に昇給制度

月額1万の待遇改善の支給要件が明らかに

11月16日に開かれた「第132回社会保障審議会介護給付費分科会(以降、本分科会)と表記」において、かねてより話題に上っていた「介護職員の待遇改善(月額1万円)」の具体的方法論が示されました。

来年1月の加算率公表を経て、具体的に加算要件がスタートするのが2017年4月。事業者としては早めに準備を進めておく必要が高いであろう、という想いのもと、今月のニュースレターでは、新たに設けられる加算要件の内容について確認してまいります。

 

新たな支給要件とは

本分科会の中では新たな支給要件の対応案として、先ず、下記内容の解説が為されました。


※第132回社会保障審議会介護給付費分科会資料より抜粋

あらためて確認すると、事業者として「月額1万円相当の上乗せ加算報酬」を獲得するためには、下記2つの要件のクリアーが求められてくる、ということになります。

  1. 現状の処遇改善加算(I)の要件
  2. 経験もしくは資格等に応じて昇給する仕組みまたは一定の基準に基づ

き定期に昇給を判定する仕組みを設けること(就業規則等の明確な書面での整備・全ての介護職員への周知を含む)
(=キャリアパス要件(Ⅲ))

この2要件のクリアーを条件とする加算区分が、これまでの処遇改善加算(I)の上に更にもう一つ設けられる、ということになる訳です。

 

ちなみに、この内容を分かりやすく図示したものが下記になります。

※第132回社会保障審議会介護給付費分科会資料より抜粋

更に、『「経験もしくは資格等に応じて昇給する仕組みまたは一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組み」とは具体的にどのようなものなのか?(現行の処遇改善加算(Ⅰ)の要件との違いは?)』という疑問が生じる事も想定した上で、下記のような解説資料も同時に開示されています。

しっかりと目を通し、今回の加算要件に対する理解を深めておくことが重要です。

※第132回社会保障審議会介護給付費分科会資料より抜粋

加算要件クリアーの“先”に対する意識も重要

「月額平均1万円の処遇改善」の報酬を手にしたとしても、当然ながら、全ての介護職員に対して“平等”に1万円ずつを配分しなければならない訳ではなく、その配分基準については、上記➀経験②資格③評価等の基準づくりも含め、各々の事業者の人事戦略に委ねられることになります。

その意味においては、本加算の要件をクリアーすることは当然の事として、経営者としては、「この上乗せ報酬を有効活用して、どのように組織を活性化させるか?」についてもしっかりと計画を練っておく必要があると言えるでしょう。

そのためには入念な準備が必要となる事は間違いなく、早め、早めに行動に移されることを強くおススメする次第です。

当社としても今後、本テーマに対する新たな関連情報が入り次第、適宜、皆様に発信してまいります。

著者:enjie_me-admin

社会保障審議会・介護保険部会での議論の流れとは

次期法改正の輪郭が明確に

次期介護保険法改正・報酬改定へ向けて論点の整理を行っている、社会保障審議会・介護保険部会。12月の提言取りまとめを視野に、現在、個別の論点に対してもかなり具体的な意見が整理・集約されてきています。


事業者の皆様には早めに議論の動きをおさえておいていただきたく、今回のニュースレターでは同会で議論されているポイントについて抜粋してお伝えしてまいります。

2018年度介護保険法改正についての5つの視点

現在の議論を整理・集約すると、大きく分けて下記5つに大別できるものと思われます。

  1. 保険者機能強化・見直し関連
  2. 人材確保関連(生産性向上・業務効率化)
  3. 各サービスのあり方関連
  4. 利用者負担・費用負担関連
  5. 新たな枠組み関連(地域共生社会)

今回は、このなかでも特にご質問・ご相談が多い(2)(3)の内容について触れてまいります。


先ずは(2)、人財確保関連(生産性向上・業務効率化)についてです。

人材確保関連(生産性向上・業務効率化)

人材確保関連に対する議論は、これまでもここで触れてきましたロボット・ICTの議論です。9月の介護保険部会において、ロボット・ICTの活用促進のために、ロボット・ICTを活用している事業所に対して介護報酬や人員・設備基準の見直し等を介護報酬改定時に検討することが提案されています。


また業務効率化等の観点から法令上提出が必要な書類等の見直しや、ICTを活用した書類の簡素化を求めた提案がされています。この流れはさらに加速しそうですし、公的資金の動向も含め着目しておきたい論点です。



※平成28年9月7日社会保障審議会・介護保険部会資料より抜粋


続いて(3)の論点について触れてまいります。

各サービスのあり方

まず、同会にてとりあげられているサービスの全体について確認しておきましょう(下記)。

  • ケアマネジメントのあり方
  • 福祉用具・住宅改修
  • 軽度者への支援のあり方
  • リハビリテーション機能の強化
  • 中重度者の在宅生活を支えるサービス機能の強化
  • 療養病床再編に向けた議論
  • 安心して暮らすための環境の整備(特養)(有料老人ホーム)
    これらの中から特にご質問の多い項目「ケアマネジメントのあり方」「福祉用具・住宅改修」「軽度者への支援のあり方」「中重度者の在宅生活を支えるサービス機能の強化」各々について論点を確認してまいり
    ます。まずはケアマネジメントからです。

各サービスのあり方〜ケアマネジメントのあり方

介護保険部会では、ケアマネジャーのあり方について、次の視点に基づいて審議が進められています。

  1. 資質向上を目的に、今後,ケアマネジメント手法の標準化を推進する事。
  2. 適切なケアマネジメントを推進するため、居宅介護支援事業所における管理者の役割を強化する事。
  3. 特定事業所集中減算の見直しも含めた公正中立なケアマネジメントを確保する事。
  4. ご利用者の1割負担をケアマネジメントにも導入する事。
  5. 入退院時における医療・介護連携の強化等の観点から、居宅介護支援事業所の運営基準等の見直しを介護報酬改定の際にあわせて検討する事

特に④の利用者負担問題については、反対署名を22万筆以上集めたことを、「日本介護支援専門員協会」が6月の社員総会で明らかにしましたが、以降も賛否両論(下記)が併記されながら、現在も介護保険部会での審議は継続されています。最終的にどちらに着地するかは未知数ですが、事業者としては「1割負担が導入される」ことを前提に、今後の事を考えておいた方が賢明だと言えるでしょう。


尚、ケアマネジメントの利用者負担導入の際の議論の内容、論点は次の通りです。



※平成28年9月23日社会保障審議会・介護保険部会資料より抜粋


続いて、福祉用具・住宅改修の議論に移ってまいります。

各サービスのあり方〜福祉用具・住宅改修の論点

福祉用具については、貸与価格の問題が議論されており、極端な価格差が生じないようにすることなどが論点とされています。


また、住宅改修にあっては、住宅改修の内容や価格について保険者が適正に把握・確認できるようにするとともに、利用者の適切な選択に資するための見積書類の様式や、複数の住宅改修事業者から見積りをとれるようにケアマネジャーが利用者に対して説明することができることを提案しています。


さらに共通項として、福祉用具や住宅改修が,利用者の自立支援、状態の悪化の防止、介護者の負担軽減等の役割を果たしていることも考慮した上で、価格設定や保険給付の対象範囲、利用者負担のあり方等について問題提起しています。



※平成28年10月12日社会保障審議会・介護保険部会資料より抜粋


続いて、軽度者への支援のあり方についてです。

各サービスのあり方〜軽度者への支援のあり方の論点

10月4日の財政制度分科会では、「改革の方向性」(案)として,軽度者に対する生活援助については、地域支援事業に移行すべきとのまとめがなされています。


ところが,10月12日の介護保険部会の論点は(以下図参照)、その方向性とは異なっています。すなわち、まずは他のサービスの総合事業への移行状況や、「多様な主体」による「多様なサービス」を着実に進め、事業の把握・検証を行った上で地域支援事業への移行検討を行うべきとしています。正当な理由があるとはいえ、この段階で大きく方向性が変わることは余り例がなく,巷では選挙対策との噂が飛び交うほど注目された動きです。



※平成28年10月12日社会保障審議会・介護保険部会資料より抜粋


最後は、中重度の在宅生活を支えるサービス機能の強化についてです。

各サービスのあり方〜中重度者の在宅生活を支えるサービス機能の強化についての論点



この議論は、小規模多機能型居宅介護や看護小規模多機能型居宅介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護などの地域密着型サービスの利用者数や事業所数を増やすなどの充実をどう図るかというのが焦点です。




 具体的には、地域密着型通所介護について、小規模多機能型居宅介護等の普及のため必要があれば、市町村が地域密着型通所介護サービス事業者の指定をしないことができるしくみの導入や、在宅のケアマネージャーが(看護)小規模多機能にご利用者を紹介しても、プランの移動が生じないようにする等の提案が為されています。


このように、ここでの議論は、中重度者の在宅生活を支えるしくみとして,小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護などの地域密着型サービスへの期待があらためて強く感じられる流れになっています。

自社の経営に影響が出そうな論点については更なる情報収集を



2018年介護報酬改定の方向性は、もちろんすべて決まったわけではないにせよ、この12月のとりまとめへ向けて、その輪郭はかなり明確なってきています。事業者にあってはこうした動向を想定し、特に自社の経営に直接影響が出そうな論点については、体制整備、人材育成などいかに早い段階から手を打つことができるかが重要でしょう。


経営にあっては、まさにその対応力がこれから大きく問われることになりそうです。私たちも今後、更に有益な情報を入手出来次第、どんどん情報を発信してまいります。

著者:enjie_me-admin

公正取引委員会から出た「介護分野に関する調査報告書」の内容とは

28年9月5日「介護分野に関する調査報告書」が発表。その経緯とは

公正取引委員会は9月5日、事業者の新規参入や創意工夫発揮の環境整備により、競争を促進し、消費者に良質な商品・サービスを提供、その比較・選択により商品・サービスの質の更なる改善を促すことを目指すとした「介護分野に関する調査報告書」を発表しました。

このような競争政策の観点から介護分野の考え方を整理することは、介護サービスの供給量の増加や質の向上が図られることにつながると考えられるとし、次の4つの視点が提示されています。

  1. 多様な事業者の新規参入が可能となる環境づくり
  2. 事業者が公平な条件の下で競争できる環境づくり
  3. 事業者の創意工夫が発揮され得る環境づくり
  4. 利用者の選択が適切に行われ得る環境づくり

今まで介護分野についてはほぼ何も触れてこなかった「公正取引委員会」が敢えてこのような調査報告を出してきたことを考えると、本報告書の内容は2018年法改正含め、少なからず今後の介護経営に影響を及ぼしてくる、と考えるのが自然でしょう。

そのような前提認識のもと、今回のニュースレターでは、特に詳しくお伝えしたいと考える2点の内容について取り上げてまいります。
最初は「特別養護老人ホーム」に関するものです。これは現在、主に社会福祉法人が運営していますが、ここに風穴をあけることになります。

1. 参入規制 多様な事業者の新規参入が可能となる環境の整備

先ずは下記整理資料にご注目下さい。

上記資料にもある通り、本テーマに関する公正取引委員会からの主な指摘事項は次の通りとなっています。

1)医療法人,株式会社等が社会福祉法人と対等の立場で参入できるようにすることが望ましい(あわせて,補助制度・税制等に関するイコールフッティングについても要検討。)

2)自治体は,自らが設置する特別養護老人ホームにおいて,株式会社等を指定管理者とするように,指定管理者制度を積極的に活用していくべき。

3)自治体は,総量規制を適切に運用すべき。あわせて,具体的な事業者の選定に当たっては,選定基準を明確化し,客観的な指標に基づいて選定を行うなど,恣意性の排除を図るとともに,選定の透明性を図るべき。


特に上記 1)2)の指摘について、「株式会社等が社会福祉法人と対等の立場で参入できるようになることにより、確かに競争原理が働き、サービスの質の向上等が促進される」という期待効果は確かに一理あるかもしれません。

しかし、一方では、「営利法人という特性を持った法人が、果たしてセーフティネット機能を全うできるのか(=儲からなくなったらすぐに閉鎖してしまうのではないか)」というリスクも当然ながら潜んでいます。このあたりの論点について今後、どのように整合性を図っていくのかを注視する必要がありそうです。

もうひとつは、介護サービス・価格の弾力化、「混合介護の弾力化」についてとり上げます。

2. 介護サービス・価格の弾力化、(混合介護の弾力化)事業者の創意工夫が発揮され得る環境の整備

本テーマに関する公正取引委員会からの主な指摘事項は次の通りとなっています。


1)「混合介護の弾力化」を認めることにより、事業者の創意工夫を促し、サービスの多様化を図ることが望ましい。

2)その「混合介護の弾力化」。具体例としては、

◎保険内サービスの提供時間内に利用者の食事の支度に併せて、帰宅が遅くなる同居家族の食事の支度も行うことで、低料金かつ効率的にサービスを提供できるようになる可能性がある。

◎利用者が特定の訪問介護員によるサービスを希望する場合に、指名料を徴収したうえで派遣することが可能となる。

3)国は自治体により事業者の創意工夫を妨げるような運用が行われることがないよう、制度の解釈を明確化し、事業者の予見可能性や透明性を高めるべき。



「混合介護」に関して、「公正取引委員会」のここでの論点は、「事業者の創意工夫を促し、サービスの多様化を図る」という視点で切り込まれています。

一方で介護報酬のプラス改定要素が難しくなるなか(内閣府「経済財政運営と改革の基本方針」等)、保険サービスを補完する保険外サービスへの取組みとして着目されているところもあります。

28年3月には「保険外サービス活用ガイドブック」として厚生労働省、農林水産省、経済産業省が3省併記でまとめた報告書も発表されました。

こうした流れを加味すると、今回ここでとり上げられた事は、今後の「混合介護」のあり方に大きな影響を与えそうです。

今後の影響から考える

さらに政府はこの後の9月12日「第1回未来投資会議」を開催しています。ここでの議論でも「介護は保険外サービスとの組み合わせが必要」との見解を示し、さらに「混合介護」を前進させるべく具体化へ向けた検討に着手しています。

こうした政府の動向をみても、「混合介護」取組みの流れは、ますますスピード感を増すことが予想されます。

このことは、介護事業者にあっては、制度内のいわば「均一のサービス」から「独自のサービス」を提供することが求められ、結果、事業も多様化してくることになりそうです。

しかしながら、ここで注意したいのは「では保険サービスは必要ないのか」という視点です。

「保険外サービスへの取組み」の重要性はいいとしても、それが強調されるあまり「保険内サービス」、つまり従来の基本的な「介護サービス」が軽視されてはいけません。

統計でも明らかなように多くの地域で高齢者人口はこれからも増えることが予想されています。

そのなかで必要なサービスを考えたとき、「保険内サービス」はやはり重要な介護サービスであることには変わりはないでしょう。

最適なサービス提供をしていくために、「保険内、保険外」といういわば「サービス供給者サイド」からの視点だけでなく「利用者サイド」の視点をもつことも重要ではないでしょうか。

※「(平成28年9月5日)介護分野に関する調査報告書について」資料の原本をご覧になりたい方はこちら↓
http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h28/sep/160905_1.html