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社会保険労務士法人エンジー
地下鉄名城線 東別院駅 徒歩1分
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営業時間 平日:8:30-17:30
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公開日 2025/01/10
みなさん、こんにちは!
社会保険労務士法人エンジーでは、介護施設や障害福祉サービスを運営している事業者様に向けて、様々な情報を発信しています。
就労継続支援B型事業所を運営する方にとっては、利用者の特性やニーズに合わせた支援を行うなかで、「工賃」をどのように設定し、改善していくかといった悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。
今回は、就労継続支援B型事業所における「工賃」に焦点を当て、基本的な定義や報酬制度との関係、工賃規定のポイント、さらには運営上の注意点について解説していきます。
就労継続支援B型事業所では、障がいのある方(以下「利用者」と記載します。)が自分のペースで働き続けることを目指し、生産活動を通して収入を得る仕組みがあります。
この、利用者が得る収入のことを「工賃」と呼びます。
工賃は、事業所が行う生産活動によって生じる利益を、利用者に分配したものです。
一般的な企業でいうところの「給与」や「日当」に近いイメージになりますが、就労継続支援B型の場合、事業所と利用者の関係性や、事業所の収益構造が一般企業とは異なるため、収入に対する考え方も異なっているのです。
就労継続支援B型は、就労の場を提供するサービスであり、一般的な企業における雇用契約とは異なります。
利用者は事業所の従業員ではなく、あくまでもサービスの利用者なのです。
一方で、利用者はその場で実際に作業や生産活動を行い、それにより得られた収益から工賃が支払われています。
こうした関係性は、一般的な雇用とは異なり、事業所側はサービス提供者でありながら、同時に企業の使用者のような側面も持ち合わせているという特殊な構造になっています。
このような背景から、工賃は給料というよりも活動による成果の分配のような意味合いを持っているわけです。
就労継続支援B型では、利用者は自分のできる範囲で作業に取り組み、その成果に応じて工賃が発生します。
この工賃は、利用者にとって単にお金がもらえるという意味だけではなく、自分の働きが価値を生み出していると実感を得るきっかけにもなりますし、利用者の自立や生活向上に繋がる役割もあります。
つまり、工賃は、就労継続支援B型の利用者にとって、社会参加や自己肯定感を高める重要な要素になっているのです。
利用者の方が自分らしく
働くためにも、工賃は大切な
役割を担っています。
就労継続支援B型事業所の運営を考える上で、「工賃」と「基本報酬」の違いを正しく理解しておく必要があります。
繰り返しになりますが、工賃は、「事業所が生産活動を行うことで得た収益を、利用者へ還元するお金」です。
一方、基本報酬は「国や自治体から事業所へ支払われる公的な給付」であり、利用者支援を実施するための基盤となる収入源です。
これにより、人件費や設備費用など必要なコストをまかなうことができ、安定的なサービス提供が可能となります。
この二つを区別して考えることで、事業所は透明性の高い運営ができます。
また例えば「なぜ工賃がこの額なのか?」という疑問が出たときに、基本報酬を踏まえた収支構造を丁寧に説明ができれば、利用者やご家族にも現状を理解してもらいやすくなります。
工賃と基本報酬を正しく理解し、経営のバランスを取ることで、事業所は長期的な安定運営と利用者の満足度向上を同時に目指せるようになるのです。
PICK UP!
・工賃規定:事業所が生産活動を行うことで得た収益を、利用者へ還元するお金
・基本報酬:国や自治体から事業所へ支払われる公的な給付
就労継続支援B型事業所を運営する上で、工賃は利用者にとっても事業所にとっても重要な要素です。
そのため、事業所がどのように工賃を決めて、どのようなルールに基づいて支給するかが明確に定められている必要があり、それが工賃規定になります。
工賃規定は、事業運営の透明性や公正性を確保し、利用者との信頼関係を築く上で欠かせない役割を果たします。
就労継続支援B型の工賃は、あらかじめ決められた基準に沿って、事業所が独自に設定します。
「これぐらいが妥当」といった曖昧な決め方をするのではなく、利用者に納得してもらえる基準を示した上で運用することがポイントになります。
以下に、工賃設定の際に考慮するべき代表的な要素を挙げます。
工賃の原資となるのは、事業所が行う生産活動による収益です。
そのため、商品・サービスの販売価格、原材料や諸経費などのコストを考慮し、利益がどれだけ残るかを見極めましょう。
PICK UP!
生産活動による収入 - 経費 = 工賃
利用者が取り組む作業は、難易度や工数、品質などの要素が関係します。
工賃設定にあたっては、利用者がどれぐらいの時間・労力をかけ、どの程度事業所の収益向上に貢献したかを考慮します。
例えば、簡単な作業から始めてステップアップした利用者には、その成長を踏まえて工賃に反映させるなど、工夫が求められます。
完全に横並びにする必要はありませんが、あまりにも地域水準とかけ離れた工賃は、利用者やご家族に不信感を生む可能性があります。
平均工賃などの情報を参考に、妥当な金額設定も大切です。
工賃は障害福祉サービス事業所のガイドラインや、厚生労働省・自治体の通知、報酬体系なども参考にする必要があります。
行政指針はきちんと確認するようにしましょう。
利用者の方やご家族に
きちんと説明できるように
設定や指針を作成しましょう
工賃は、事業所の利益÷利用者の人数といったような単純計算ではなく、実際には様々な要素を考慮して決定します。
ここでは基本的な流れを示します。
まずは、事業所が一定期間(1か月など)に得た収入を算出します。
商品の売上や下請け作業の受託料などが主に収入を占めるかと思います。
原材料費や消耗品費、光熱費、設備維持費など、生産活動に必要な経費を収入から差し引きます。
就労継続支援B型は非雇用型のサービスですが、職員の人件費など、運営に欠かせない固定費も存在します。
この固定費部分も収入から差し引くことになります。
利用者一人ひとりの作業時間や作業量、作業内容の難易度などを基にして、利益をどのように割り振るか決めます。
例えば、「工数に応じて比例配分する」「一定のベース額を設定したうえで、品質や量で上乗せする」など、事業所ごとに決めたルールに沿って計算していきます。
不明瞭な計算方法や極端なばらつきがあると不信感や不満が生まれかねませんので、最終的に工賃が決まったら、利用者や関係者にわかりやすく説明するように心がけましょう。
公平で納得のいく仕組みづくりを行っていくことが大切です。
工賃規定を作り、実際に支給していく過程では、「実績報告」も欠かせないポイントです。
実績報告とは、事業所が一定期間内でどれだけの収益を上げ、どのように工賃を利用者へ分配したかを、管轄の行政機関へ報告する仕組みです。
実績報告は、公的な支援を受けている就労継続支援B型事業所が、公正・適正に事業運営を行っていることを証明するために必要なものです。以下の点に気をつけるようにしましょう。
工賃の算定根拠や分配結果を明示し、第三者が見ても不正がないことを示すことができます。
客観的に透明性が確保されていれば、利用者やご家族も安心でき、信頼されるものとなります。
実績報告を行うことで、毎月・毎年の収支や工賃額の推移が明確になり、事業そのものや事業所の経営全体の改善に役立てることができます。
実績報告は、行政機関が事業所の健全性や適正性を判断する際の重要な資料となります。
補助金や助成金の申請の際に悪影響が出ないようにするためにも、適正な運営は大切になってきます。
工賃規定は単なるルールではなく
利用者との信頼関係を築く上でも
大事な役割を果たします。
就労継続支援B型事業所における工賃の平均月額は、統計資料等を通じておおよその水準を知ることができます。
一般には、全国平均は月額17,000円強と示されていますが、これはあくまで平均であって、実際には事業所によって大きく異なります。
利用者にとってみれば、平均月額は自分の働きがどの程度の金額として返ってくるかを考える一つの指標となります。
おおよその目安がわかることで、日々の生活設計が建てられたり、あるいは趣味などの楽しみができモチベーションに繋がるかもしれません。
事業所側にとっても、他の事業所の平均水準を踏まえて生産性を見直すきっかけになるかもしれません。
平均値を上げれば良いという単純な話ではなく、利用者の納得感と事業所の経営とのバランスが大切になってきます。
平均工賃はあくまで参考値ですが、「その数字を意識してみる」という参考として扱っていただければと思います。
工賃を高くするために必要な
事業所の収益性を高める工夫について
考えていきましょう。
生産活動と工賃との関係性を考える際には、以下のポイントに着目してみることをおすすめします。
シンプルな考えですが、良質な商品やサービスは、高い価格での販売に繋がります。
製品の品質向上やブランド化を意識することで、より高い収益を得られる可能性が上がります。
無理なく作業を進められる工程管理を行いましょう。
作業手順を分かりやすくしたり、利用者の得意分野を生かしたローテーションとすることで、全体の生産性が上がります。
販路の多様化や、新たな販売チャネルの開拓により、商品の安定した売上に繋がれば、事業所の収益基盤が強化されます。
地域イベントへの出店やオンライン販売、企業とのコラボレーションなど、販路拡大の可能性を探っていくと良いでしょう。
いずれも当たり前のことのように感じられるかもしれませんが、この機会に「どうすれば生産活動をより効率化できるか」という発想で改めて見直しても良いかもしれません。
工賃を改善したいという思いを持ったら、次に必要となるのが、そう「計画」です。
具体的な目標と手段を明確にするため、工賃向上計画を策定しましょう。
報酬算定の要件にもなっていますので、要チェックです。
以下に計画策定のポイントを示しますので、参考になさってください。
まずはじめに、現在の工賃水準や生産活動の状態を整理しましょう。
何が課題なのか、どの部分がボトルネックになっているのかを洗い出し、その上で、段階的な目標を設定します。
次に、目標を達成するために、必要な取組を考えます。
具体的な施策と、その担当者やスケジュール感も想定できると実効性が高まりますね。
計画は作って終わりではなく、きちんと実行されてこそのものです。
もし予想より進捗が遅い場合には、その原因を探り、計画の修正も検討しましょう。
少しずつでも成果が現れれば、利用者や職員のモチベーションにも繋がると思いますので、前向きに取り組んでいきましょう。
工賃向上計画のポイント
・現状分析と目標設定
・戦略と施策の明確化
工賃は利用者の生活の一部になっていることに加え、モチベーションにも繋がっていることは先ほどからも説明してきたところです。
このような点を踏まえると、事業所としては、工賃規定や算定方法に関する透明性の確保、情報開示は必須となるでしょう。
注意すべきこととして、ただ開示すれば良いのではなく、わかりやすくかつ丁寧に、というところがポイントになってきます。
また、工賃を上げたいと考えていても経営の問題が出てきます。
収益性はどうなっているのか、何か効率化が図れる部分はないか、など一見工賃とは直接関係がなさそうなことについても、きちんと検証を行うことが必要になってきます。
工賃は、就労継続支援B型事業を行う上で、切っても切り離せない関係にあります。
経営のことも考えながらで大変だとは思いますが、利用者の生活全体を見据えた配慮を怠らないように気をつけていくことで、皆が安心して働ける環境を整えることができます。
工賃を上げようと思ったときには
工賃以外の状況にもきちんと
目を向けることが大切です。
今回の記事では、就労継続支援B型事業所における工賃についてフォーカスし解説してきました。
今回解説した点を参考に、「事業者」と「利用者」それぞれの視点で工賃について考えることで、より良い関係が築けるのではないでしょうか。
工賃規定や工賃向上計画の策定、あるいは事業所運営そのものについて心配事があれば、専門家へ相談してみることもおすすめします。
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