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「介護職員等ベースアップ等支援加算」は今どうなっている?現行ルールと実務対応を社労士が解説

「介護職員等ベースアップ等支援加算」は今どうなっている?現行ルールと実務対応を社労士が解説

公開日 2025/10/27

みなさん、こんにちは!

社会保険労務士法人エンジーでは、介護施設や障害福祉サービスを運営している事業者様に向けて、様々な情報を発信しています。

「介護職員等ベースアップ等支援加算」は2024年6月から新『介護職員等処遇改善加算』へ一本化され、ベースアップ加算としての単独算定は終了しています。

今回のブログは、経過措置V区分、2.5%/2.0%賃上げの意味、実績報告で返還を避ける実務まで解説します。

介護職員等処遇改善加算とは

「介護職員等ベースアップ等支援加算」は、基本給ベースの賃金改善を後押しするために創設された上乗せ加算であり、処遇改善・特定処遇改善に重ねて、賃上げの下支えをしてきました。
2024年6月以降、処遇改善系の加算が新しく『介護職員等処遇改善加算』へ一本化されました。以降、ベースアップ加算としての単独算定は行いません。

厚生労働省の公式リーフレットにも一本化と加算率引上げ、および経過措置(区分V)が明記されています。

 

R6年度の準備と移行期間を経て、R7からは「本番運用」となりました。
区分I〜IVのどこを狙っていくかを早めに決めると、 配分設計と人材戦略を整え、対応に向けて動いていくことができます。


参考:
「処遇改善加算」の制度が一本化(介護職員等処遇改善加算)され、加算率が引き上がります(厚生労働省)

新加算は以下の3要件で構成されています。
具体の項目数・特例・周知義務などは年度によって差があるため、最新の資料で確認をするようにしましょう。

1.キャリアパス要件

役割や等級、賃金体系、研修・評価・昇給の仕組みを文書で明確化し、周知・運用することが柱です。
令和6年度は、準備中でも「整備します」と約束していれば問題なく、令和7年度からは実体の整備・運用が前提となります。

2.月額賃金改善要件

加算額の一定割合を基本給や毎月支払う手当へ充当し、前年度ベースアップ相当分の少なくとも3分の2を月額へ移すことが求められます。
一時金の併用は可能ですが、月額中心が原則で、実績で積み上げ(証跡)を示す運用が必要です。

3.職場環境等要件

業務の見える化や生産性向上(ICT・業務改善)、定着・働きやすさに資する取組から複数項目を選んで実施します。令和7年度は選択・実施が求められる項目が増えるため、実施記録を残したうえで、社内に周知し、定期的に振り返って改善する運用(PDCA)に落とし込みましょう。配分の考え方として、介護職員に重点配分しつつ、事業所内での柔軟な職種間配分が認められているという部分がポイントです。介護職以外の職種も対象になり得ます。

 

「一時金偏重→月額へ」の付け替えが必要なケースに要注意です。
就業規則・賃金規程の整合も早めに行うとよいでしょう。

+2.5%/+2.0%は“要件”ではなく目標

よくある誤解ですが、+2.5%(R6)/+2.0%(R7)は算定要件ではありません。
賃上げ促進税制の活用などと組み合わせて、2か年で実現を「お願い」しているような位置づけです。
さらに、R6年の加算額の一部をR7年に繰越して賃金改善に充当することが可能であり、不足分は賞与等の一時金で追加配分すれば返還不要として取り扱われることがあります。

 

返還は「最後に不足を埋めれば回避できる」というのが原則です。
期末の一時金を想定し、
月次で積み上げを見える化しましょう。


参考:介護職員等処遇改善加算に関するQ&A(第2版)(厚生労働省)

実務でつまずきやすいポイント

返還リスク

実績報告で賃金改善額<加算額であれば返還対象となります。
ただし、不足分を一時金で追加配分すれば返還を求めない取り扱いとなります。

繰越

R6で積み上げた加算分の一部は、令和7年度に回して翌年度の賃金改善にあてることができます。

休止・廃止時

繰越分は原則、当該事業所の職員へ一時金で全額配分しなければなりません。
同一法人の一括申請に限り、他事業所の職員を対象にすることができます。

労使手続

不利益変更に当たる恐れがある場合は合理的な理由に基づいて、適切に労使の合意を得る必要があります。

 

「どこまで月額、どこから一時金」といった線引きが肝となります。
配分ルールと証跡(議事録・周知など)を残しておくと後がラクです。

かんたんな計算例(理解用の概算)

試算は「月次の見込み」と「年度見込み」の二段構えとなります。常勤換算の変動も定期的にチェックすると精度が上がります。
※実際の加算率はサービス種別で異なります。詳細は公式資料をご確認ください。

・常勤換算:10.0人/対象賃金総額(当月):3,600,000円
・仮の新加算率:14.5%(例)
・当月加算額(概算)= 3,600,000 × 0.145 = 522,000円

運用のポイント

月額賃金改善要件に沿って、基本給・毎月手当への充当を優先しましょう。
年度末に不足が見えたら、一時金で追加配分して賃金改善額≧加算額を確保してください。

 

よくある誤解とその解説

「+2.5%/+2.0%は必ず達成しないと加算が取れない」

これは誤解です。
+2.5%(令和6年度)/+2.0%(令和7年度)は、算定要件ではなく国が促す賃上げの目標です。新しい処遇改善加算は、令和6・7年度の2か年で加算額の全体が賃金改善に充てられていればよいという整理で、年度をまたいだ前倒し・繰越の運用も認められています(例:R6の一部をR7へ繰越)。

「賃金改善額が加算額に届かなければ必ず返還になる」

原則として、実績報告で賃金改善額<加算額なら返還対象です。ただし、不足分を賞与などの一時金で追加配分すれば、返還を求めない取扱いが明確に示されています。
ポイントは、改善実施期間のうちに不足を埋める段取りを組み、配分ルールと証跡(稟議・周知・賃金台帳)を残しておくこと。これにより“うっかり不足→返還”を避けられます。

「区分Vはこの先も使い続けられる」

使い続けられません。
区分V(1)〜V(14)は令和6年度内の経過措置(激変緩和)として設けられた期間限定の区分です。令和7年4月以降は、I〜IVの本運用へ完全移行します。
したがって、R6のうちに自事業所の到達可能なI〜IVの着地点を見定め、要件整備(キャリアパス・月額賃金改善・職場環境等)を前倒しで進めることが重要です。

「配分は介護職だけに限られる」

基本は介護職に重点配分ですが、事業所内での柔軟な職種間配分が認められています。
Q&Aでは介護職以外を含む全職種が配分対象になり得ることが明記され、実務上も看護職・相談員・リハ職・ケアマネ・事務職などに配分している事例が多数みられます。
とはいえ、介護職を基本に、経験・技能のある職員へ重点配分という原則は忘れずに。配分の考え方を文書化・周知しておくと、後日の説明もスムーズです。

以下のポイントを把握、対応できているかを確認しておきましょう。

  • 今年度の区分(V/I〜IV)と要件を把握してい
  • 月額→一時金のバランス設計を文書化している
  • 就業規則・賃金規程の整合と労使合意の準備がある
  • 常勤換算と加算額の見込み表を月次で更新している
  • 実績報告で賃金改善額≧加算額になるシナリオを2パターン以上準備
 

返還は、初の設計次第で避けることができます。
見込み表+配分ルール+証跡の“三点セット”を日々まわしておけば、
年度末に慌てずに済みます。

FAQ

計画書と実績報告は、何を・いつ・どこに提出すればいいですか?

毎年度、計画書(別紙様式2:補助金・加算計画書一体化様式)を提出し、年度末(または自治体が定める時期)に実績報告書(別紙様式3)を提出します。

提出先や締切は都道府県・市町村(保険者)等の指示に従う運用のため、必ずお住まいの自治体の案内を確認してください。厚労省の公式ページでは、最新年度の様式・記入例・説明動画がまとめられています。

パートや派遣・委託、法人本部の職員は賃金改善の対象になりますか?

基本は介護職への重点配分ですが、事業所内での柔軟な職種間配分が認められています。
雇用形態ごとの考え方は次のとおりです。

  • パート・短時間:時給引上げ等を含め対象。
  • 派遣労働者:対象にできるため、派遣元と協議し、派遣料の上乗せが派遣職員の給与へ確実に反映されるよう計画書・実績報告に位置づけます。
  • 在籍型出向・業務委託:原則、派遣と同様の考え方で取り扱い可。外部サービス利用型特定施設の委託先介護職も、委託費の上乗せが賃金改善に充当されることを明示すれば対象に含められます。
  • 法人本部等の間接部門:当該サービス事業所の業務に実質的に従事していると判断できる場合に限り対象。介護保険外サービスのみの職員は対象外です。

どの手当が「毎月支払われる手当」に当たりますか?時給・日給アップはOK?

「決まって毎月支払われる手当」とは、労働に直接関係し、個人事情に左右されない手当を指します。月ごとに額が変動しても“毎月支払い”なら含みます(例:職能・資格・役職・地域などの手当名で可)。一方、通勤手当・扶養手当のように個人事情による手当は含みません。

また、時給や日給の引上げは“基本給の引上げ”として扱ってOKです。なお、月額賃金改善要件を満たすための付け替えで、一部の職員の収入が実質的に減るような運用は不可です。

実績報告で賃金改善額が加算額を下回ったら返還ですか?

原則、実績報告で「賃金改善額<加算額」となった部分は返還対象です。
ただし、改善実施期間内に賞与等の一時金で不足分を追加配分すれば、返還は求められません。
追加配分の根拠資料(周知・議事録・賃金台帳等)を整え、実績報告に反映してください。

休止・廃止時の繰越分は他事業所の職員に配分できますか?

原則、休止・廃止となる事業所の繰越分は、その当該事業所の職員へ一時金等で配分します。
ただし、同一法人による一括申請の場合に限り、他事業所の職員へ配分することも可能です。
配分方針の文書化と労使合意、支給記録(証跡)を必ず残しておきましょう。

まとめ

「介護職員等ベースアップ等支援加算」は2024年6月に一本化され、現行は新「介護職員等処遇改善加算」での運用が前提です。2024年度は区分Vの経過措置、2025年4月からI〜IVが本運用となるため、目標区分を早めに定めて要件整備を進めましょう。
+2.5%/+2.0%は“要件ではなく目標であり、介護職を基本にしつつも、多職種へも柔軟に配分することができます。
実績報告では賃金改善額≧加算額を確保し、不足分は一時金の追加配分やR6→R7の繰越で対応可能です。

エンジーがお手伝いできること

  • 無料30分オンライン診断(区分の現在地、返還リスク、要件の抜け漏れチェック)
  • 旧→新の対応表作成と、配分設計(月額中心/一時金併用)・賃金規程/就業規則の整備
  • 月次モニタリング表(常勤換算・加算見込み・賃金改善の積上げ)作成と運用伴走
  • 計画書・実績報告の作成支援/提出スケジュール管理/自治体対応(照会文案含む)
  • 不足見込み時の期末一時金シミュレーション、R6→R7の繰越設計、休廃止時の配分設計
  • 年度末の駆け込み対策(追加配分の手順書・周知文書・帳票チェック)
  • 複数事業所・法人一括申請の最適化(他事業所配分の可否・根拠整理)
  • 派遣・委託・本部職の取扱い整理と証跡テンプレ提供(通知文・議事録・周知・台帳反映)
  • 管理者・本部向けの運用研修(60分)と社内Q&A整備
 

制度の“いま”を押さえたうえで、月次の見込み表×配分ルール×証跡を運用に落とす。この基本ができていれば、返還は設計で避けられます。
迷うときは“どの区分をいつ狙うか”から一緒に整理しましょう。


この記事は厚生労働省の公式サイトおよび資料を基に作成しています。


公式サイト

「福祉・介護職員の処遇改善(総合ページ)」
「介護職員の処遇改善:TOP・制度概要」

資料
「介護職員等処遇改善加算に関するQ&A(第2版)」(令和7年3月17日)
「『処遇改善加算』の制度が一本化(介護職員等処遇改善加算)リーフレット」
「処遇改善に係る加算全体のイメージ/移行資料(新加算V(1)〜V(14)・I〜IV)」
「介護職員の処遇改善について(資料)」
「介護保険最新情報 Vol.1353(令和7年2月10日)」
「介護保険最新情報 Vol.1367(令和7年3月17日)」

 

最新情報は公式ページでご確認ください。

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