10月に開催された“介護給付費分科会”のポイントを理解しておきましょう
公開日 2020/11/01
最終更新日 2020/11/05
2021年度法改正・報酬改定に向け、各サービスの具体的な論点が明確に
2021年度介護保険法改正・報酬改定の議論が現在進行形で行われている“介護給付費分科会”。2020年10月に入り、いよいよ、各サービスの具体的な改正論点が明確になってきています。
現状の情報を早めにインプットし、(心構えも含めた)然るべき準備を行っていくために、今回のニュースレターでは、多くの介護事業者が関わられているであろう「訪問介護」「通所介護」について、代表的な論点をピックアップ・確認していきたいと思います。
2020年10月開催の「介護給付費分科会」で示された論点(抜粋)とは
では、早速、中身を確認してまいりましょう。
まずは、通所介護・地域密着型通所介護・認知症対応型通所介護生活機能向上連携加算についてです。
【論点】
■ 通所介護・地域密着型通所介護・認知症対応型通所介護の生活機能向上連携加算算定率(※)は、
- 通所介護 事業所ベース:1.2%/3.9% 回数ベース:0.4%
- 地域密着型通所介護 事業所ベース:0.7%/1.1% 回数ベース:0.2%
- 認知症対応型通所介護 事業所ベース:2.3%/2.5% 回数ベース:0.4%
- 介護予防認知症対応型通所介護 事業所ベース:1.8%/3.3% 回数ベース:0.0%
と非常に低くなっている。
加算創設の目的(外部のリハビリテーション専門職と連携することにより、自立支援・重度化防止に資する介護を推進すること)を達成する観点から、どのような対応が考えられるか。
↓
【検討の方向(案)】
■ 外部のリハビリテーション専門職との連携を促進するため、訪問介護等における算定要件と同様、ICT活用を認めることを検討してはどうか。また、連携先を見つけやすくするための方策を検討してはどうか。
※2020年10月15日 介護給付費分科会資料より抜粋
リハ(=医療職)と介護の連携体制を強化し、より効果的なケアを実行していくためにも「生活機能向上連携加算」の取得促進を進めていきたい、という厚生労働省の意思が明快に反映されたものと思われます。
尚、「検討の方向(案)」の文言は、加算を取得していない理由として、「近隣に該当の事業所・施設が存在するのかが分からない」という声が一定程度上がっていることが背景にあるようです。
次に、通所介護・地域密着型通所介護 個別機能訓練加算(Ⅰ)(Ⅱ)についてです。
【論点】
■ 通所介護・地域密着型通所介護においては、利用者が可能な限りその居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう生活機能の維持又は向上を目指し、必要な日常生活上の世話及び機能訓練を行うこととされている。
■ さらに、より効果的に機能訓練を実施する観点から、個別機能訓練加算(Ⅰ)(Ⅱ)を設け、利用者の居宅を訪問した上で利用者の居宅での生活状況を把握し、
- 個別機能訓練加算(Ⅰ):主に身体機能の維持又は向上
- 個別機能訓練加算(Ⅱ):主に生活機能の維持又は向上
を目指し機能訓練を実施した場合に、評価を行っている。
■ 個別機能訓練加算については、通常規模型・地域密着型において算定率が低く、算定できている事業所であっても、それぞれの加算の目的に応じた機能訓練項目を設定することが難しい場合もあるが、どのような対応が考えられるか。
↓
【検討の方向(案)】
■ 個別機能訓練加算について、加算を算定できない理由や、算定できている事業所での機能訓練の実施状況に鑑み、人員配置要件や機能訓練項目の見直しを行うことを検討してはどうか。
※2020年10月15日 介護給付費分科会資料より抜粋
人員配置要件について、具体的には、「機能訓練指導員を常勤又は専従により配置することが難しい」という要因が加算不取得理由の多数を占めている状況を受け、この点に見直しが入ってくるものと思われます。
また、機能訓練項目の見直しについては、「個別機能訓練加算(Ⅰ)(Ⅱ)を算定している場合において、訓練内容にほとんど差がなく、かつ、個別機能訓練加算(Ⅱ)を算定している場合でも生活機能に関する訓練はほとんど実施されていない」という調査結果を踏まえての見直しになるものと思われます。
次に、通所介護・地域密着型通所介護・認知症対応型通所介護入浴介助加算についてです。
【論点】
■ 通所介護・地域密着型通所介護・認知症対応型通所介護の入浴介助加算算定率(※)は、
- 通所介護 事業所ベース:94.5% 回数ベース:71.5%
- 地域密着型通所介護 事業所ベース:77.8% 回数ベース:56.2%
- 認知症対応型通所介護 事業所ベース:98.1% 回数ベース:71.3%
- 介護予防認知症対応型通所介護 事業所ベース:69.8% 回数ベース:60.7%
と非常に高くなっている。
■ 事業所の中には、単に利用者の心身の状況に応じた入浴介助を行うのみならず、利用者が自立して入浴を行うことができるよう、自宅での入浴回数の把握や、個別機能訓練計画への位置付け等を行っているところもある。
■ これらを踏まえ、入浴介助加算の在り方について、どのように考えるか。
↓
【検討の方向(案)】
■ 入浴介助加算について、現在の算定状況や、入浴介助を通じた利用者の居宅における自立支援・日常生活動作能力の向上に資する取組を行っている事業所の状況をふまえ、見直しを検討してはどうか。
※2020年10月15日 介護給付費分科会資料より抜粋
上記内容及び付随資料の情報だけでは何とも解釈しがたい部分はありますが、可能性として、「入浴介助加算という加算項目が無くなり、個別機能訓練の中の訓練項目の一つとして位置付けられる」という方向性が打ち出されるかもしれない、ということは頭に置いておいた方が宜しいかもしれません(報酬はどうなるの?という点については言及が為されていないので、現時点では方向性が見えづらい状況です)。
次に、地域等との連携についてです。
【論点】
■ 通所介護事業所において、利用者が地域において社会参加活動を実施したり、地域住民との交流を図る場を設けるなど、地域等との連携を行っている場合があるが、これらの取組には、
- 利用者にとって、心身機能の維持向上に資するのみでなく、要介護状態となっても社会で役割をもつことができるようになる
- 事業所にとって、より地域に開かれた事業を展開することができる
といった効果があると考えられる。
■ 通所介護事業者において、地域等との連携を促進していく観点から、どのような対応が考えられるか。
↓
【検討の方向(案)】
■ 地域密着型通所介護等において運営基準上で設けられている地域等との連携にかかる規定を、通所介護においても設け、通所介護事業所における地域での社会参加活動、地域住民との交流を促進することとしてはどうか。
※2020年10月15日 介護給付費分科会資料より抜粋
「“場”を有している」という観点含め、従来の機能に加え、通所介護事業所に今後、“地域連携”という更なる役割を担ってもらいたい、という厚生労働省の意図が明快に反映されたものと思われます。
次に、訪問介護 特定事業所加算についてです。
【論点】
■ 訪問介護の特定事業所加算(体制要件+人材要件+重度者対応要件で構成。区分支給限度基準額に含まれる)については、質の高いサービスを提供する事業所を評価するものであるが、区分支給限度基準額を超える利用者が出るとの理由から、要件を満たしているにも関わらず、加算を算定できていない事業所が一定数存在する。
■ 一方で、訪問介護以外のサービスにおける類似の加算であるサービス提供体制強化加算(体制要件+人材要件)については、介護職員の処遇改善に資する加算であり、区分支給限度基準額に含まれない加算とされているため、訪問介護の特定事業所加算についても同様の取扱いにすべきではないかとの要望がある。
■ 訪問介護の特定事業所加算について、重度者対応などの質の高いサービスを提供する事業所を評価していくという政策目的や、有効求人倍率が高い・人手不足感が強いことなどの現状を踏まえ、訪問介護員の処遇改善に向けた取組をより一層推進する観点から、どのような対応が考えられるか。
↓
【検討の方向(案)】
■ 訪問介護の特定事業所加算について、
- 質の高いサービスを提供する事業所を評価する観点から「定期的な事業所内の会議の開催」や「介護福祉士等の手厚い配置」等の体制や人材を評価しているが、対象となり得る事業所を適切に評価する観点から、訪問介護以外のサービスにおいて同様の項目を評価するサービス提供体制強化加算が区分支給限度基準額の対象外とされていることも踏まえて、見直しを検討してはどうか。
- 地域において難易度が高い介護や質の高い介護を提供する事業所を適切に評価する観点から「重度者対応」の評価は維持しつつ、報酬体系の簡素化の観点からも、見直しを検討してはどうか。
※2020年10月22日 介護給付費分科会資料より抜粋
訪問介護における有効求人倍率が「15.03倍(2109年度時点)」となっており、人財確保策の一貫として訪問介護職員の処遇改善の重要性が高まる中、「区分支給限度基準額を超える利用者が出るとの理由から、要件を満たしているにも関わらず、特定事業所加算を算定できていない事業所が一定数存在」していることに対して改善を加え、処遇改善を促進させていこう、というのが本論点の意図となっています。
次に、訪問介護の生活機能向上連携加算についてです。
【論点】
■ 生活機能向上連携加算は、自立支援型のサービスの提供を促進し、利用者の在宅における生活機能向上を図る観点から、訪問・通所リハビリテーション事業所やリハビリテーションを実施する医療提供施設のリハビリ専門職・医師と連携して作成した計画に基づく介護を評価。
■ 当該加算については普及が進んでいないところであるが、外部のリハビリ専門職等と連携した自立支援型サービスの提供を効果的かつ効率的に進める観点から、どのような対応が考えられるか。
↓
【検討の方向(案)】
■ 生活機能向上連携加算(Ⅱ)について、サービス提供責任者とリハビリ専門職等がそれぞれ利用者の自宅を訪問した上で協働してカンファレンスを行う要件に関して、要介護者の生活機能を維持・向上させるためには多職種によるカンファレンスが効果的であること及び業務効率化の観点から、利用者・家族も参加するサービス担当者会議によることを可能とすることを検討してはどうか。
※また、通所介護における生活機能向上連携加算の検討の方向(案)と同様、連携先を見つけやすくするための方策を検討してはどうか。
※定期巡回・随時対応型訪問介護看護、(介護予防)小規模多機能型居宅介護も同様にしてはどうか。
※2020年10月22日 介護給付費分科会資料より抜粋
本論点も通所介護同様の意図だと理解して差し支えないものと思われます。具体的には、サービス担当者会議の場を有効活用していく、という方向になるでしょう。
次に、訪問介護 通院等乗降介助についてです。
【論点】
■ 通院等乗降介助については、居宅要介護者の目的地(病院等)が複数ある場合であって、出発地及び到着地が居宅以外である目的地間の移送(例えば、病院間の移送や通所系・短期入所系サービス事業所から直接病院等に行った場合)については、算定できないこととされている。
■ このような目的地間の移送についても、算定を認めるようにして欲しいとの指摘があるが、通院等乗降介助について、利用者の負担軽減や利便向上の観点から、どのような対応が考えられるか。
↓
【検討の方向(案)】
■ 通院等乗降介助について、利用者の身体的・経済的負担の軽減や利便向上の観点から、以下の①+②又は②+③のように、居宅が始点又は終点になる場合には、病院等から病院等への移送や、通所系・短期入所系サービス事業所から病院等への移送についても、介護報酬の算定を認めることを検討してはどうか。
※2020年10月22日 介護給付費分科会資料より抜粋
上記変更は極めて現実的・朗報と考えても差し支えないかもしれません。
最後に、訪問介護 看取り期における対応の充実についてです。
【論点】
■ 訪問介護については、看取り期における医療との連携に着目した介護報酬上の特別な評価はないが、他のサービスにおいて看取り期への対応に係る加算制度が置かれていることに鑑み、評価を求める要望がある。
■ 厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(平成30年版)においては、本人・家族等と多専門職種からなる医療・ケアチームが十分な話し合いを行うこととされており、これにはケアに関わる介護支援専門員のほか、介護福祉士等の介護従業者が加わることも想定されている。
■ また、介護現場の実態としても、24時間連絡できる体制を確保したり、職員研修を充実させるなど、看取り期の対応力強化を図るための取組を行っている事例があるほか、訪問介護事業所の訪問介護員が、在宅で生活する看取り期の利用者にサービス提供を行う際に、医療・ケアチームの話し合いに参加しており、その参加率は介護支援専門員と同程度となっている。
■ こうしたことを踏まえ、訪問介護における看取り期への対応の充実を図る観点から、どのような対応が考えられるか。
↓
【検討の方向(案)】
■ 訪問介護における看取り期への対応の充実を図る観点から、看取り期における訪問介護の役割や対応の状況等も踏まえながら、その評価について検討してはどうか。※訪問入浴介護も同様に検討してはどうか。
※2020年10月22日 介護給付費分科会資料より抜粋
現時点においても「看取り対応」を行っている訪問介護事業所も一定数存在すること、及び、訪問介護事業所において「看取り」という言葉が今以上に強く意識されるかもしれないことを含め、こちらも「朗報」と捉えて差し支えないものと思われます。
議論のプロセスから関心を持って情報を追いかけておくことが大切
以上、代表的なサービスの、代表的な論点について確認・言及させていただきました。介護経営者としては「こうなるかもしれない」という最終的な結論だけでなく、「何故このような内容に着地する可能性が高いのか?」という、言葉の裏に潜む意図や背景を温度感も含めて理解する姿勢がますます重要となってくるものと思われます(その意味からも是非、介護給付費分科会で提示されている資料も併せてご確認下さい)。
また、早め早めに情報をキャッチアップし、頭の中“PDCA”を回しておく事も必要かと思われます。「もし上記が実行された場合、自社にはどのような影響が出てくるか?」「それら想定される影響に対し、どのような対応を行う事が最適なのか?」幹部育成の視点も含め、そのような議論を社内で始めていかれる事を是非、おススメする次第です。
※引用元資料はこちら
↓
第188回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_14094.html
第189回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_14240.html
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